阿含経に学ぶ-4(悩みを解決したい!) 浪 宏友


   尽きない悩み

 人間に悩みは尽きません。経営者も、ビジネスパーソンも、さまざまな悩みに襲われています。
 悩みを解決しようと思っても、どうすればいいのか分かりません。このため、悩んだまま棚上げ状態にしてしまいます。悩みの先送りです。先送りした悩みが再燃して、にっちもさっちもいかなくなったということも稀ではありません。
 悩みが生じたときに、どうしていいか分からないまま、手探りで解決の方法を探します。
 ああしたらどうだと考えてああしてみます。しかし、うまくいきません。
 こうしたらどうだと考えてこうしてみます。どうもはかばかしくありません。
 ほかで、こうやったらうまくいったという話を聞いて、うちでもやってみたけれど、駄目でした。
 人からアドバイスを受けてやってみたら、初めは上手くいったような気がしましたけれど、結局、一時しのぎでしかありませんでした。
 悩みというものは多種多様で、一筋縄では対応しきれません。似たような問題でも、以前に有効だった方法が、今回も上手くいくわけではありません。
 欲しいのは、現在悩んでいるこの問題を、確実に解決する方策です。これを、「今の、この問題を解決する方策」と呼んでおきます。

  プラン・ドゥ・チェック・アクション

 経営・ビジネスの世界には、マネジメントサイクルという理論があります。なかでも「プラン・ドゥ・チェック・アクション(PDCA)」は有名です。
 目的達成のために計画を立案します。これが「プラン(P)」です。
 この計画を実行するのが「ドゥ(D)」です。
 計画を実行して、目的が達せられたかどうかを検証します。これが「チェック(C)」です。
 検証したところ、上手くいっていないのであれば、不十分なところを修正して、目的に近づけます。これが「アクション(A)」です。

  問題解決の六つのステップ

 阿含経には、「四つの聖諦(四諦)」という有名な理論があります。仏教の祖と言われる釈迦牟尼世尊によって説かれた、苦悩を解決するための理論です。
 この理論と「PDCA」を組み合わせて、「問題解決の六つのステップ」を考案してみました。
 簡単にご紹介します。

 第一ステップ=問題を明らかにする。
 第二ステップ=問題の原因を明らかにする。
 第三ステップ=原因を解決すれば、問題が解決することを明らかにする。
 第四ステップ=原因を解決する方策を明らかにする。
 第五ステップ=原因を解決する方策を実行する。
 第六ステップ=方策を実行したら、原因が解決して、問題が解決したことを明らかにする。

 以上が「問題解決の六つのステップ」です。

 ここで、第一ステップから第四ステップまでが「プラン」です。「今の、この問題を解決する方策」を策定する段階です。
 第五ステップは「ドゥ」になります。策定した方策を実行する段階です。
 第六ステップは「チェック・アクション」です。方策を実行した効果を検証し、効果が十分ではない場合は、必要な修正を行なう段階です。

  「今の、この問題を解決する方策」をみつける

 この六つのステップは、「今の、この問題を解決する方策」をみつけて、実行し、問題を抜本的に解決することを目的とした理論です。

 第一ステップは「問題を明らかにする」段階です。
 悩みが生じると、「どうすればいいんだ」と騒ぎ立て、ああすればどうか、こうすればどうかと方法を求める、そういう人を数多く見てきました。
 どうすればいいのか分からないけれど、何もしないわけにはいかない。とにかくやってみようというのであれば、やはり、心もとないものがあります。
 私たちは「今の、この問題を解決する方策」を見つけ出したいのですから、何はともあれ「今の、この問題」を明らかにする必要があります。
 現実に何が起きているのか、何を、どのように困っているのかなど、問題を具体的に見極めれば、解決の見通しも立ってくると思います。

 第二ステップは、「問題の原因を明らかにする」段階です。
 問題には、必ず原因があります。たいていは、いくつかの原因が重なり合って、問題が生じています。それらの原因を、具体的に明らかにしていきます。この、原因探求の質が高ければ高いほど、根本的な問題解決に近づくことができます。

 第三ステップは、「原因を解決すれば、問題が解決することを明らかにする」段階です。
 原因を解決すれば、問題が解決するはずですが、原因はひとつではありません。いくつかある原因のうち、どの原因を、どう解決すれば、問題がどう解決するのかを見定めるのがこの段階です。
 問題解決に取り組んでいるのが自分であるとすれば、自分が努力すれば解決できる原因はどれなのかを見定める必要があります。なぜなら、原因に自分の手が届かなければ、どうすることもできないからです。自分の手が届くいくつかの原因のうち、この原因を、このように解決すれば、問題はこのように解決すると、見通しが立ったら、次の段階に入ることができます。

 第四ステップは、「原因を解決する方策を明らかにする」段階です。
 前の段階で見定めた解決すべき原因を、自分の努力で解決するための具体的な方策を考えて、計画化します。これが「今の、この問題を解決する方策」です。これによってマネジメントサイクルの「プラン」が確立します。

 このあとは、第五ステップに入って実行し、第六ステップで検証し、時には方策を修正しながら、原因解決に取り組むこととなります。
  四つの聖諦

 「問題解決の六つのステップ」が、阿含経に説かれている「四つの聖諦」をベースにしていることは、先ほど申し上げた通りです。
 「四つの聖諦」は、阿含経では次のように説かれています。
 ここで「聖諦」とは「あるがままに了知する」ことで、事実をそのまま知ることです。

 苦の聖諦=〈こは苦なり〉とあるがままに了知する。(苦諦)
 苦の生起の聖諦=〈こは苦の生起(おこり)なり〉とあるがままに了知する。(集諦(しったい))
 苦の滅尽の聖諦=〈こは苦の滅尽(めつじん)なり〉とあるがままに了知する。(滅諦)
 苦の滅尽にいたる道の聖諦=〈こは苦の滅尽にいたる道なり〉とあるがままに了知する。(道諦)

   「四つの聖諦」は、修行者が自分の苦を直視し(苦諦)、自分の中にある苦の原因を自覚し(集諦)、苦の原因を滅すれば苦が滅することを理解し(滅諦)、苦の原因を滅する道として説かれた修行道を実践する(道諦)というものです。
 「四つの聖諦」を実践して、苦の原因が滅し、これによって苦が滅したときには、修行者の人格が向上しています。こうした修行を繰返していけば、ついには自分の中にある苦の原因を滅し尽くし、崇高な人格を具えることができます。そのような境地に到った修行者を「阿羅漢(あらかん)」と言います。
 阿羅漢の境地に入った修行者は、今度は、まだ苦しみのなかにある人びとを、苦から救い、阿羅漢の境地に導くための活動に入ります。
 こうした救いの輪をどこまでも広げることによって、あらゆる人を苦悩から救い、崇高な人格者に育て上げたいと、釈迦牟尼世尊は願っているのです。

  私はちゃんとやってきた

 相談に訪れた経営者と話し合っていますと、しばしば「私はちゃんとやってきた」とおっしゃいます。けれども、経営はうまくいっていないのです。
 自分はちゃんとやってきたのに、経営はうまくいっていないとすれば、ここには、この経営者の手が届かないところで、ほかの原因が働いていることになります。ということは、この経営者の悩みを、この経営者の努力で解決する道はありません。事態が好転するのをじっと待つほかありません。
 「私はちゃんとやってきたつもりでしたが、うまくいっていないのだから、どこか間違っていたのかもしれません」とでもおっしゃるようであれば、道が開ける可能性が出てきます。
 悩みは、いくつもの原因が重なり合って生じているものです。そして、自分が悩んでいるときには、多くの原因の中の少なくとも一つは自分にあるものです。自分にある原因なら、自分の手が届きます。この原因を解決すれば悩みは解決します。ほかの原因が残っていても、悩みは解決するのです。
 経営者でも、ビジネスパーソンでも、「四つの聖諦」を学んで、この理論に依拠しながら、悩みと取り組んでくだされば、必ず解決の道を見つけることができます。そして、悩みが解決すると同時に、自分の実力が向上します。
 「問題解決の六つのステップ」は、それを願いながら、ご紹介させていただきました。