[ビジネス縁起観からのメッセージ]        浪 宏友


◆従業員が働かない

 従業員が自分の思うように働かない。そんなことを言いながら、怒ったり嘆いたりしている経営者が少なくない。
 そうした経営者の中には、道具か機械を買うような感覚で人を雇い、使う人がいる。そんな経営者の多くが、従業員というものはスイッチを入れれば、経営者の思う通りに働くものと決めてかかっている。しかし実際にはなかなかそうはならない。
 経営者の思い通りに働いてもらうには、従業員を人間として認め、人間の尊厳を尊ぶ姿勢で対応することが必要である。その上で適切な人事・労務管理を行い、適正な従業員教育をほどこすことが欠かせない。

◆「ヒト」は経営資源ではない

 従来からの考えかたでは、経営資源と言えば「ヒト・モノ・カネ」であり、これに「情報」が加わり、さらに別の要素が加えられることもある。
 ここでは「ヒト」が「モノ」や「カネ」と同等に扱われている。
 このとき資源とされる「ヒト」のなかに経営者も入っているのだろうか。経営者は資源ではない、従業員だけが資源だというのだろうか。もしそうなら同じ人間同士として、なんだか変だと思わないだろうか。
 経営資源の考えを改めて「ヒト」を外すべきである。「ヒト」は資源とは別に考えるべきである。どう考えても、人は資源を活用する立場であり、物や金と同一視されるいわれはない。

◆ハラスメント

 従業員を資源だと思って、道具や機械と同じような感覚で扱う。雇った以上は人格支配をしてもいいのだというような錯覚が芽生えてしまう。雇われたほうもまたそんな考えでいる。そこに非人間的な関係が芽生え、人道に反する現象が当たり前に起きたりする。
 このような土壌の中から、ハラスメントが発生する。
 日本の法律では、殴ったり小突いたり物をぶつけたりというような肉体的暴力は、相手が部下であっても犯罪であり、暴行罪または傷害罪になる。
 モラルハラスメントでは、相手にPTSD(外傷後ストレス障害)のような重大な結果が生じると、肉体的な暴力が伴わなくても、暴行罪として扱われることがある。
 法律はともかく、お互いに尊い人間同士なのだから、知らず知らずのうちに人格侵害をすることがないように、心しなければならないだろう。(浪 宏友)
☆「詩人散歩」平成20年春号に掲載