[ビジネス縁起観からのメッセージ]        浪 宏友


◆会議
 会議の冒頭で社長が立ち上がって言う。
 「今日は、君たちの意見を存分に聞かせてもらいたい」
 どっかりと腰を落ち着けて耳を傾けるのかと思いきや、そのまましゃべり始める。延々と、延々と。
 会議終了予定時刻の五分前ぐらいになって、ようやく話が終る。そして社長は言う。
 「君たちには意見というものがないのかね。君たちが何も言わないから、俺がしゃべらなければならなくなる」
 社員のひとりが後でぽつりと言った。
 「これも、給料のうちだから」

◆相談
 「君たちは『ほうれんそう』を大事にしなけりゃいかん。『ほうれんそう』とは、報告・連絡・相談のことだ」
 日頃、そう言っている課長のところに行って
 「ご相談があるんですが……」
というと、面倒くさそうな表情で、
 「今頃、何だ」
 「実は……」
と話し始めると、最後まで聞かずに、
 「分かった、考えとく」
と、立って行ってしまった。
 話はまだ、本題に入っていなかったのに。
 その社員は後でぽつりと言った。
 「やっぱり、相談なんかできないな」

◆報告
 ある社員が課長のところに来て、言った。
 「課長、俺、ちゃんとやったんですけど」
 課長は、訳がわからずに問い返した。
 「何の話だ」
 「うまくいかなかったのは、俺のせいじゃないと思うんですけど」
 「だから、何の話だ」
 「失敗といえば失敗だから怒られても仕方ないすけど」
 「だから、何のことだ」
 「でも、俺、ちゃんとやったんです」
 課長は「もう、いい」と、社員を怒鳴りつけて追い返してしまった。
 その社員は後でぽつりと言った。
 「課長はすぐ怒りだすからな」

◆コミュニケーション?
 「うちの会社は、コミュニケーションがどうも……」などと愚痴る裏には、こんなことが横行して いるかもしれない。もしそうなら経営者から末端社員まで、みんなで基本からやり直してもらいたい と思うけれども、そういうコミュニケーションが、まず、取れないかもしれないなあ。(浪)                                           (浪)
☆「詩人散歩」平成22年春号に掲載