[ビジネス縁起観からのメッセージ]        浪 宏友


 この人は、自分が見たことのないもの、使ったことのないものは、すべて欠陥品だとする。このため、新しい道具や設備を導入しようとすると、猛烈に反対する。
 この人は、自分の知らないことは、すべて無価値であるとする。このため新しい勉強をした若い人たちの知見や意見を、片っ端から否定する。
 この人は、自分の理解できないことは、すべて誤りであるとする。このため斬新なプランや方法が提案されると、激しい勢いで排除する。
 この人は、自分の中に出来上がってしまった小さな枠の中でしか、生きていけない。枠の中に居さえすれば心が休まるのだが、少しでも枠の外に出てしまったら、不安で仕方がない。
 この人には、自分の枠を広げようという発想すら持つことができない。枠を広げることにすら、不安を感じている。

 この人は、自分が知っていることを他人が知らないと分かると、大いにひけらかす。それがどうでもいいことであっても。
 この人は、他人ができなかったことを自分ができると、それみたことかと相手を見くだす。それがほんのささいなことであっても。
 こんな姿、幼児でもあれば可愛いものだが、そうでなければ……。

 このような人の本質は、劣等感なのではなかろうか。
 自分には実力がない。けれども実力があるように見せたい。そこで、相手を否定する。否定することによって、自分をよく見せることができる。そう、思っている。
 劣等感の強い奴ほど、大声で威張り散らすんだよなあと、嘆いている人がいた。そういうことなのかもしれない。

 よく知っているような顔、実力があるような態度で他人のことを否定して歩いていながら、その人が何かをしているところを誰も見たことがない。
 そんなつまらんこと、いまさらできるかという態度で、人に押しつける姿は、しょっちゅう見ている。

   ここまで極端な人は珍しいかもしれないが、こうした傾向を持つ人は世間に珍しくない。
 いくら空威張りをしても、実力は実力。世間は甘くないことを、この人は最後まで気づかないのかもしれない。       (浪)
☆「詩人散歩」平成22年秋号に掲載