◇山のあなた
カール・ブッセ(ドイツの詩人)が作り、上田敏(明治時代の文学者)が訳した「山のあなた」という有名な作品があります。
山のあなたの空遠く
「幸(さいはひ)」住むと人のいふ。
噫(ああ)、われひとと尋(と)めゆきて、
涙さしぐみ、かへりきぬ。
山のあなたになほ遠く
「幸(さいはひ)」住むと人のいふ。
◇幸福は遠くにある?
人々は、幸福は遠くにあると思って来たようです。遠い空の向こう、遥かな海の彼方、まだ見ぬ国などに幸せがあると考えたようです。
自分の現在の生活の中には幸せはない、見知らぬ土地に幸せが待っている。そんな気持ちにもなるようです。
しかし、メーテルリンクの「青い鳥」も、ライマン・フランク・ボームの「オズの魔法使い」も幸せは日常生活の中にあるという結末になっていました。
理想の人を遠くに探し求めたけれども出会うことができず、さんざん傷つき疲れ果てて帰って来たら、昔からすぐそばにいた人が、探していた人だったという物語も作られていたと思います。
◇「幸福」は感じるもの?
「幸福というもの」があるのでしょうか。私は見たことがありません。「幸福」は、物のように手に入れる対象ではないと私は思っています。
「幸福」は、「感じる」もののように思えるのです。「幸福だなあ」と感じれば幸福なのです。思えなければ幸福ではありません。
幸福だなあと感じる力があるかないかが、幸福を得られるか得られないかの分かれ目になりそうです。同じシチューエーションにあっても、幸福を感じる人と感じない人がいるのは、そのためだろうと思います。
してみると、幸福は日常生活の中にあるのではなくて、自分自身の中にあるのだと言ってもいいのではないでしょうか。
◇感謝と幸福
幸福を感じる力はどのようにして養われるのだろうかと考えました。すると、思い当たることがありました。感謝することです。幸福を感じるから感謝するということもありますが、感謝をすると幸福を感じるのも事実です。感謝する力の大きい人ほど、幸福を感じる回数も増え、大きくなるようにも思えるのです。
幸福は感謝するところから生まれてくる。私にはそんなふうに思えるのです。(浪)
☆「詩人散歩」平成24年春号に掲載