[ビジネス縁起観からのメッセージ]        浪 宏友


◇ウェブページ「仏教経済塾」を運営なさっておられる安原和雄先生は、仏教経済学者とお呼びしていいのでしょうか。毎日新聞経済記者を経て足利工業大学教授となり現在は名誉教授です。

◇安原先生のウェブページでは「仏教経済塾」の表題の下に、次のリードがあります。
 「もっともっと欲しい」の貪欲の経済から「足るを知る」知足の経済へ。さらにいのちを尊重する「持続の経済」へ。日本は幸せをとりもどすことができるでしょうか、考え、提言し、みなさんと語り合いたいと思います。

◇安原和雄著『足るを知る経済 仏教思想で創る二十一世紀と日本』(毎日新聞社発行)を読ませていただきました。ここに論じられている内容は膨大でとても消化しきれません。それでも私なりに感じたことがいくつかありました。

◇人間は、長い間「もっともっと欲しい」の貪欲の経済を営んできました。消費する量が大きければ大きいほど幸福なんだと勘違いした人々は、幸福の源泉であるはずの消費財を求めて苦悩するという、矛盾の海に溺れてしまっています。

◇自然界では生命の営みが資源を再生産してくれますが、人間たちの消費する量は、自然界の再生産能力を超え始めているように思われます。そればかりか、地球を痛めつけて、再生産能力を低下させている一面もあります。
 資源がどんどん少なくなり、やがて枯渇してしまったら、人類は生き続けることができなくなるのではないでしょうか。その兆しは、すでに見え始めているように思われます。

◇このことを心配する人々(安原先生もその一人です)が、警鐘を鳴らしたり、国際会議を開いて報告書を公表したりしていますが、その声は貪欲の壁に遮られてなかなか人々の心には届かないようです。

◇「もっともっと欲しい」という精神を捨てて、「足るを知る」精神で生活するようになったとき人間は真の幸福を味わうことができるのです。このことは多くの事例が具体的に示しているのですが、貪欲経済の信奉者には、見ても見ず、聞いても聞こえずのようです。

◇安原先生の言う知足の経済は、人間としての幸福を味わうことのできる経済です。それも自分ばかりでなく、子供も子孫も幸福を味わい続けることのできる持続の経済であり、発展の経済です。

◇「一切衆生悉有仏性」「山川草木悉皆成仏」の精神がある人なら、知足の経済の真意を理解し、生活に、産業に、現実化することができるはずです。そのような方々が、突破口を開いてくださることを期待したいと思います。(浪)
☆「詩人散歩」平成27年夏号に掲載