[ビジネス縁起観からのメッセージ]        浪 宏友


 ある経営者から相談を受けました。売り上げが伸びないというのです。どういう経営をしているのかを聞いて、ああ、これでは売り上げが伸びるわけがないと思いました。

 経営者に、売り上げを伸ばすには、どういう心構えが必要かを説明しました。その上で、正しい経営の方法を提案しました。といっても、特別な方法があるわけではありません。地道な方法を改めて説明しただけです。

 経営者は、私の提案を受け入れ、地道な経営に取り組みました。すると、売り上げが伸びて、利益もそこそこ残りました。
 実績に喜ぶ経営者に、地道な経営を継続すれば売り上げ、利益が少しずつ伸びることを説明し、これを続けるように勧めました。

 ところが、しばらくすると、また売り上げが伸びなくなったというのです。様子を見ると、すっかり、以前の経営に戻っていたのです。経営者本人は、私が教えたとおりに経営しているというのですが、現実はそうではありませんでした。

 私は、方法を教える前提として、経営の心構えを説明しました。また、地道な経営を粘り強く続けることを念押ししました。経営者も、理解し納得していました。だから、経営を正しく進め、売り上げも利益も上がっていたのです。

 ところが、そのうちに正しい心構えも、正しい努力も、経営者から蒸発してしまったようです。経営者の中に残っていたのは、形骸化した経営の方法だけでした。これでは、売り上げが減少するのも当然でした。

 経営者が身に着けるべきだったのは、何をおいても、経営に対する正しい心構えでした。言葉を変えれば、正しい経営理念を持つことでした。
 正しい経営理念から生み出される正しい経営方法が、継続的な業績向上につながるのです。
 この経営者は、私が教える心構えを理解できても、自分の体質にするまでには至らなかったようです。私も、ここのところに、もっと注意を払うべきでした。

 いい話を聞いて喜びを覚えても、自分の改善に役立てなかったら、一時のレクリエーションでしかありません。
 自分の内容が変わらないまま、優れた方法を使おうとしても、一度や二度は見よう見まねでなんとかなりますが、継続することはできません。いわば、付け焼刃にすぎないからです。
 このことを私に痛切に教えてくれた、貴重な事例となりました。(浪)
☆「詩人散歩」平成28年夏号に掲載