[ビジネス縁起観からのメッセージ]        浪 宏友


◇「理念」という言葉が誕生した経緯は、私には分かりませんが、文字面からは、次のように考えることができます。
 「理」は「ことわり」とか「すじみち」という意味です。「念」は思い続けることです。してみると「理念」は、「思い続けている“ことわり”や“すじみち”」ということになります。 ここから、「経営理念」とは、「事業を営む者が思い続けている“ことわり”や“すじみち”」ということになります。

◇本来の「理」は、世の中における普遍的な根拠に基づく“ことわり”や“すじみち”です。
 これに対して経営理念における「理」は、事業を営む者すなわち経営者における個人的な根拠に基づく“ことわり”や“すじみち”です。
 本来の理と経営理念における理が共鳴することもありますが、不協和音を発することもあるようです。

◇経営理念は個人的なものだとしても、事業経営には公共性がありますから、本来の理と共鳴することが望ましいのは当然です。

◇思い続けている“ことわり”や“すじみち”は自ずから行動となって現れるはずです。その人の持つ理念は、その人の行動を生み出し、ひいては人となりを育てることになります。

◇資金繰りに苦しむ経営者が、明けても暮れても「お金が欲しい、お金さえあれば」などと考え続けているのなら、経営理念は「お金、お金、お金が欲しい」ということになります。
 この経営者は毎日、毎日、お金を求めて奔走することになるでしょう。そうこうしているうちにお金に対する執着心の強い人間に育ってしまうに違いありません。このような経営者が営む事業の先行きはどうなるのでしょうか。

◇この町の人たちが求めているものを作って提供したいと考え続けている経営者なら、この町の人びとをしっかりと見つめ、求めているものをいち早く見通して、仕事に結びつけるでしょう。
 この経営者の経営理念は「この町の人たちが求めているものを作って提供したい」であり、この理念を現実に形にしているのであれば、いつしか町の人びとからの支持を受けて、良い仕事を続けることができるに違いありません。
 そのような経営理念と経営行動からは、愛情深い人柄が育ってくるのではないでしょうか。

◇自分はどのような理念を持って人生を営んでいるのか、どのような“ことわり”や“すじみち”を立てて経営を推進しているのか、折に触れて振り返ることも、大切でありましょう。(浪)

☆「詩人散歩」平成28年冬号に掲載