◇ハーズバーグ
アメリカの臨床心理学者フレデリック・ハーズバーグは、「動機づけー衛生理論」で有名です。モチベーションについて学びますと、必ずと言っていいくらい話題に上ります。
◇幼児性
彼の著作に、次の一節があります。
「人間の幼児がひもじいとき、かれの経験する痛みは、だれかが食物を与えてくれないことには軽減しない」(F・ハーズバーグ著、北野利信訳『仕事と人間性』東洋経済新報社)
幼児が親に依存して生きるのは当然です。ハーズバーグの言いたいことは、大人になっても誰かに依存しなければ生きられない人間がいるということです。
このような幼児性を引きずっている大人が痛みを覚えたときには、不平・不満を募らせて、誰かが痛みを取り除いてくれるのを待つのだと言います。自分の意思と行動で痛みから回避する術を持たないのです。
◇くれない族
一九八四年に放映された「くれない族の反乱」と題するテレビドラマから「くれない族」という言葉が生れました。
「くれない」は「紅」でもありませんし「暮れない」でもありません。「呉れない」です。「ああして呉れない」「こうして呉れない」という愚痴であり、不平不満です。
テレビドラマのくれない族は主婦でしたが、現実には、老若男女を問わず、家庭でも職場でも学校でも、いたるところにあふれているようです。 他人に依存して生きるという幼児性を引きずっている大人は、くれない族になりやすいのではないかと考えました。
◇心配
他人に依存して生きる人は、やがて依存する人を失ってしまうのが必定です。そうなれば冷たい世間に一人放り出されてしまいます。
それまでは、不平不満をぶつければ、対応してくれる人があったとしても、これからは、誰も、見向きもしてくれないでしょう。
◇精神的成長
ハーズバーグは、精神的に成長することが、人間としての生き方であると論じています。
精神的に成長することで、智慧を獲得し、主体的に生きるようになり、自己実現をすることができるようになると語っています。
他人に依存することもなく、くれない族になることもなく、充実した人生を営むことができるようになる道を、ハーズバーグは説いてくれたのだと、私は思いました。(浪)
☆「詩人散歩」平成29年春号に掲載