[ビジネス縁起観からのメッセージ]      浪 宏友


 私はある中小企業の社員です。
 社長は、社員たちに、「自分の給料は、自分で稼げ」と言います。
 社長は、「給料は俺がやるんじゃない。お客さまがくださるんだ」とも言います。
 この二つの言葉を合わせると、「自分の給料は自分で、お客さまからいただいてこい」ということになります。
 なんだか、分かったような、分からないような気持ちになりました。
 じゃあ、社長は何をしてるんだいと、ちょっと思ってしまいました。

 この話を先輩にしましたら、なかなかいい社長じゃないかと言われました。この社長は、経営が分かっているし、社員を大事にする気持ちがあるんだとも言われました。

 先輩の話では、自分は、社長から、自分の給料を稼ぐフィールドを提供してもらっているんだというのです。そう言われて見れば、自分もこの会社があるから働けるのです。そういうことですかと訊ねましたら、まあ、そういうことだと笑っていました。

 だけど、自分は現場じゃありません。事務職です。お客さまとは接触しません。これでは、自分は稼げません。そう言いますと、そこはチームワークだよと、先輩は言います。

 現場担当が現場に専念しようと思ったら、事務の仕事なんかやってられないだろう。事務担当が事務をやってるから、現場担当が現場に専念できるんだろう。
 だから現場担当に言うんだよ、事務は俺がやってやるから、俺の分まで稼いでこいってね。
 実際にそこまで言わなくてもいいけれど、現場担当が現場に専念できるように、面倒くさい事務は引き受けてやろうぐらいのことは思ってもいいんじゃないかな。
 先輩の話に、そうか、そういうことかと、なんとなく分かったような気がしてきました。

 確かに、営業担当が営業で頑張り、現場担当が現場で頑張り、事務担当が事務で頑張ってそのチームワークで、お客さんから、自分たちの給料をいただいているというわけです。
 社長はと言えば、この会社を経営して、自分たちに自分たちの給料を稼げる状況を作ってくれているのだと、そんなふうに思えて、これもチームワークなんだと思いました。

 こう考えると、「自分の給料は、自分で稼げ」「給料は、お客さまがくださるんだ」とは、なかなかいい言葉だなと思えてきました。  (浪)
☆「詩人散歩」平成31年春号に掲載