[ビジネス縁起観からのメッセージ]      浪 宏友


 昨年来、「働き方改革」という言葉が世間に飛び交っています。いや、「飛び交っていました」と、過去形で言った方がいいかもしれません。うわさ話のような騒ぎは、収まったように思われるからです。しかし「働き方改革」は、いよいよ始まったというのが本当のところです。
 この四月に最初の法律が施行され、これから数年かけて、すべての法律が施行されることになっているからです。

「働き方改革」は、幅広い内容に渡っています。その中に、有給休暇の取り扱いがあります。
 年間十日以上の年次有給休暇を与えられている従業員は、必ず、五日以上取得しなければなりません。本人が取得しない時には、会社が日にちを指定して取得させなければなりません。
 もし、五日以上取得しない従業員が居ますと、会社は、一人につき三十万円の罰金を取られることになっています。五日以上の有給休暇を取得しない従業員が十人いたら、三百万円の罰金を取られます。これはかなりの損失になりますし、官庁からは、危ない会社としてマークされることになると思います。
 従業員のほうでも、会社のためを思うなら、積極的に有給休暇を取得しなければなりません。

 「有給休暇を取りたいけれど、言い出せない」という声が、長い間、働く人々の間に、地下水のように流れていました。
 有給休暇どころか、日曜祝日に出勤して、その代休さえも取らしてもらえないという会社もあると聞いています。

   過酷な残業の話もよく聞きます。脅迫でしかない圧力で、むりやり残業させられて、体を壊し、心を壊し、人生を終わりにした話が珍しくないという残酷な状況が、この日本にあります。

 こうした事態を何とかしなければならないという政治の良心が、今回の「働き方改革」行政のひとつの動機になっているのかもしれません。
 しかし、もともと法律など歯牙にもかけない輩が、新たな法律に素直に従うでしょうか。余計な法律を作りやがってと舌打ちしてから、今度の法律の網の目をくぐるにはどうしたらいいかと、悪知恵を巡らすのが関の山ではないでしょうか。
 こうした巧妙かつ悪質な脱法行為を防止する手立ては、行政のほうではどう考えているのでしょうか。

 「働き方改革」の法律を手掛かりに、健全な職場が増えて、仕事でも幸せ、家庭でも幸せ、人生も幸せになれば嬉しいと思います。
 そのために必要なのは、やはり、一人一人の精神の健全性でありましょう。
 自分本位はほどほどにして、他人の幸福にも心を向ける人々が多くなれば、こうした問題は解決に向かうような気がするのですが・・・。(浪)

 ☆「詩人散歩」令和元年秋号に掲載