[ビジネス縁起観からのメッセージ]      浪 宏友


新人

   私が職場の新人だったころ、先輩から「○○を持って来い」と指示されました。ところが、私は「○○」を知りません。そこで「○○って何ですか」と訊ねましたら、先輩が「行けば分かる」と言います。そこで行きましたが、分かりません。「分かりませんでした」と報告すると、先輩は舌打ちして自分で取りに行きました。
 先輩は分かっているのです。けれど、こちらは分かっていないのです。分からないことを指示されて嫌な思いをしたこの経験から、私は、一つの教訓を得ました。
 私が人に指示するときは、相手が分かるように指示しよう、と。

話し言葉・書き言葉

 私たちが使っている言葉には、会話をする時に使う「話し言葉」と文章に用いるときに使う「書き言葉」があると教えられてきました。話し言葉は「口語」、書き言葉は「文語」とも言います。 話し言葉と言っても、誰と話すのか、どういう場面で話すのか、話す目的は何なんなのかなどによって、使う言葉も違ってきます。
 書き言葉も同じです。公的な書類なのか、親しい仲での手紙なのか、小説を手掛けているのかなどによって、書き方がガラリと異なってきます。

聞き言葉・読み言葉

 私は、ひそかに、「話し言葉」ではなくて「聞き言葉」で話そうと思いました。「書き言葉」ではなくて「読み言葉」で書こうと考えました。
 会話の中で、聞いた人が理解できるように話すのが「聞き言葉」です。聞き言葉は、会話する相手によって異なってきます。
 文章を読む人が、理解しやすいように書くのが「読み言葉」です。文章を読む相手によって、使う言葉も変わってきます。

仕事の指示

 仕事における指示の目的は、相手に、こちらの望む行動を行なってもらい、望む結果を出してもらうことです。そこで何を目的として、どういう行動を行なってもらいたいのかを伝えるのです。それを話すときには、相手の「聞き言葉」で話し、書くときは、相手の「読み言葉」で書こうと工夫してきました。それは決して簡単なことではありませんでしたが、努力しただけの成果はあったと、自分では思っています。

相手の身になる

 聞き言葉、読み言葉と申し上げましたが、その原理は「相手の身になる」に尽きると思います。相手の身になって話せば、話し言葉は聞き言葉になります。相手の身になって書けば、書き言葉は読み言葉になるのです。
 これによって、指示が適切に伝わるのなら、一番得をするのはこちらかもしれません。(浪)

 ☆「詩人散歩」令和02年秋号に掲載