[ビジネス縁起観からのメッセージ]      浪 宏友



 「自分が変われば相手が変わる」と言います。
 怠け癖の社員が、怠けているところを社長に見つかっては、怒鳴られていました。この社員、うちの社長は怒りっぽいなあと不平を言っていました。
 ところがある日、何があったのか、この社員が、まじめに働こうと心を決めました。その日から、怠けることをやめて、まじめに働きました。
 この社員はふと気がつきました。最近、社長に怒鳴られていないのです。そして、思いました。社長も変わったなあ、と。

 「自分が変われば相手も変わる」というのは、自分が心を変え、それによって言葉や行動が変わったら、相手の言葉や行動も変わったということだと思います。
 その意味で、この社員の場合も、自分が変わったら社長も変わったと言えるでしょう。

 このいきさつをよく見ますと、社員の変わり方と社長の変わり方に違いがあることが分かります。
 社員は、まず心が変わりました。それによって、言葉が変わり、行ないが変わりました。
 社員が変わったことによって、社員と社長との人間関係が変わりました。社員とほかの人との人間関係も変わりました。
 なによりも、社員は、自分の心・言葉・行動を変えたことによって、自分の人間性が変わりました。人間性が変わると、自分の生き方が変わります。人生が変わります。この社員は、本質的に変わったといえます。

 社長のほうはどうでしょうか。社員が変わったことによって、社長は怒鳴る必要が無くなりました。言葉の行為が変わったのです。怒鳴る行為に付随していた、身の行為も無くなり、この社員に対する心のいらいらも無くなりました。
 これは、状況に応じて言葉や行動が変わったのであって、社長の人間性が根底から変わったわけではありません。したがって、生き方が変わり、人生が変わることはありません。社長は、本質的な意味では、何も変わっていないのです。
 社長が、自分の生き方を変え、人生を変えようと思うなら、自分の心・言葉・行動を変える決心をして、変わる努力に入ればいいのです。

 注意したいのは、自分が変わっても相手が変わらないことがあることです。
 社長の怒鳴り声が絶えない職場で、怠け癖の社員がまじめにはたらく社員に変わったけれど、社長は相変わらず怒鳴っている。そういうことはありうるのです。しかし、怠け癖があった時に聞く怒鳴り声と、まじめに働いている時に聞く怒鳴り声は、聞こえ方が違っていませんでしょうか。
 そんなことよりも、どんな職場に身を置いたとしても、そこでどう生きるかは、自分の心次第、言葉次第、行動次第であることを、深く考えるべきでありましょう。