【随筆】−「太陽」               浪   宏 友


 太陽の直径は地球の約109倍。太陽と地球の距離は,太陽の直径の1000倍以上。そんなに遠いところにある巨大な太陽が,いわば巨大なヒーターとなって,地球全体を温めています。
 太陽がなかったら,草木は育ちません。草木を食べて生活している草食動物は生きられません。草食動物を食べて生き長らえている肉食動物も存在しなくなります。人間もまた例外ではありません。地上の生きとし生けるもの,太陽の恵みに依らざるはなしです。
 元旦に初日の出を拝んだり,山頂でご来光に手を合わせたり,毎朝日の出に向かって礼拝したり。古来,そのようなことを繰り返してきた人々が少なくありません。詳しいことは分からなくても,生活のなかから太陽のかけがえのなさを実感し,そういう風習を生み育ててきました。人間は,ものごとの真実を直感する力を持っているのかもしれません。
 人間は,太陽の恵みを計画的にそして最大限に活用するために暦を作り出しました。春分,夏至,秋分,冬至。これらを軸とした二十四節気。季節の移り変わりに応じて,農作業が移り変わります。産業も移り変わります。衣服が厚くなったり薄くなったりします。さまざまな行事が生まれ,風習が生まれ,人々の生活が営まれていきます。  太陽の動きとともに,地上には毎日,朝がきて,昼がきて,夕方がきて,夜がくる。これに合わせて生活のリズムが刻まれます。
 子供が目を覚ますと,台所でお母さんがご飯を作っています。元気に学校で勉強したり友だちと遊んだりして帰ってくると,おやつが待っています。夕方になってお風呂に入ると,まもなく夕御飯です。ひとしきりテレビを見て,眠い目で宿題をして,いつしか夢の国へ。
 幸せな毎日が繰り返されるうちに,成長していくのも,太陽の恵みがあればこそです。
 太陽はまた,人々の心にさまざまな思いをつくります。
 美しい恋人は青春の太陽です。明るく,まぶしい姿に憧れがわき上がってきます。
 昇る朝日は希望の象徴です。朝の来ない夜はないと,打ちひしがれた自分の心を励ますことがありました。
 明るく前向きに歩く勇気を出せという代わりに,心に太陽を持てと言います。押さえきれない情熱は,燃える太陽です。
 太陽はまた神さまになります。ギリシャにはヘリオスがいます。後にアポローンも太陽神となり,こちらのほうが有名になってしまいました。インドには,太陽の光を神格化した神ヴィシュヌ。エジプトにはラー。日本には天照大神。たぶん,どこに行っても太陽神が崇拝されているにちがいありません。
 仏教には大日如来という仏さまがいます。宇宙をあらわす仏さまであると言われていますが,その名は太陽です。
 大日如来は,太陽よりも大きな徳を持っているのだそうです。
 太陽は,昼は照らしますが夜は照らしません。大日如来の智慧の光は昼も夜も人々を照らします。太陽はいかに大きいといってもやがて消滅します。大日如来は永遠不滅です。太陽は,物の陰を直接照らして温めることはできません。大日如来はどんなところにいる人でも,いや人ばかりでなく動物でも物でも,分け隔てなく直接照らし,温めます。こういうわけで太陽よりも大きいから「大日」なのでしょうか。
 あと,五十億年もたてば,太陽は寿命を迎えるようです。それ以前に地球は消滅していると聞いています。それまでは,太陽は私たちに生きるための恵みを与え,私たちの心にはたらきかけながら,私たちを育て続けてくれるにちがいありません。(浪)

 出典:炭酸検協会報(平成17年5月号に掲載)