【随筆】 「地球」            浪   宏 友


 地球という惑星は,太陽系の九つの惑星のなかでも,もっとも個性的です。なんといっても,生命が充満しているのですから。
 他の惑星や衛星では,そのいくつかに,かすかな生命の可能性があるだけで,生命が栄えている星は見られません。
 宇宙を研究している先生方の多くは,太陽系以外にも,生命が溢れている星はあるはずだと考えておられるようですが,まだ確認されたものはありません。
 地球を他の惑星とくらべると,どんな特徴が浮かび上がってくるでしょうか。
 すぐに気づくのが水です。地球表面の7割は水で覆われています。地球は,液体の水が表面に存在する唯一の惑星です。
 地球の大気は体積で窒素が約8割,酸素が約2割です。これに二酸化炭素,水,アルゴンなどが少量ずつ混じっています。
 火星には薄い大気がありますが,大部分は二酸化炭素です。金星の大気もほとんどが二酸化炭素です。
 もともとは地球の大気も二酸化炭素が主成分でしたが,海が吸収したり,生物のはたらきで大気中の濃度が低くなりました。こうして地球上に生物の繁栄しやすい環境が整ってきたのです。
 こうしてみると地球は,生物が生まれ進化するように,人間が誕生するようにと,環境が整えられてきたと見ることができます。人間の勝手な見方かもしれませんが,天地万物に感謝したくなる見方でもあります。
 こうした地球を改めて外側から見ると,どんなふうに見えるでしょうか。
 人工衛星から見た地球や,月面から見た地球を写真やテレビでみたことがあります。海と陸と雲が見えます。美しい姿です。それでもこの写真だけでは,地上に生命が充満していることは分かりません。陸地という陸地に人間が生活していることも,分かりようがありません。ただ美しい地球があるだけです。
 考えてみれば,地球がこの美しさを獲得するのには,いくつもの大事件をくぐり抜けなければなりませんでした。地球誕生当初は火に覆われていました。長い歴史の間には,逆に地球全体が厚い氷で覆われたこともありました。巨大隕石が衝突して,生物が絶滅の危機に瀕したこともありました。それでもなお地球は回復し,生命豊かな星となって,現在も私たちを育んでくれているのです。
 こうした多くのできごとから,地球自体がひとつの大きな生命体であると唱える学者も出てきています。
 人間は,事実上,この地球でしか生きていけません。他の惑星は,人間を受けいれてくれそうにありません。月や火星ですら,相当な手当てをしなければ,居住するのは困難だと思われます。
 宇宙ステーションの建設が,日本・アメリカ・ロシア・ヨーロッパ諸国・カナダの参加で進んでいます。これは研究施設です。
 将来は特殊な目的のための工場が宇宙空間に建設されるでしょう。そこには,かなりな人数が派遣されることになるでしょう。しかし,終の住処にするのは,なかなか難しいのではないでしょうか。
 大型ロケットで宇宙空間に飛び出し,環境の整った星を見つけて移住しようなどという発想は,空想科学映画のモチーフとしては素晴らしいものですが,実際に行うとなると五里霧中だろうと思われます。
 宇宙船地球号と言われます。しかしその意味を理解し,その意義をかみしめている人ばかりではないことが,世間の様子や世界の人々のすがたに如実に現れています。
 一刻も早く自分たちが置かれている状況に気づき,心をひとつにしていただきたい。地球の実状を見るにつけ,心からそう願わずにはいられません。(浪)

 出典:炭酸検協会報(平成17年8月号に掲載)