【随筆】−「遠い惑星」            浪   宏 友


 太陽系の惑星は現在のところ九つです。そのひとつは地球です。
 五つの惑星はずっと以前から知られていました。水星・金星・火星・木星・土星です。この五つは,古代ギリシャで神様の名前をつけてもらったようです。もっとも,水・金・火・木・土という日本名は,中国の五行説からきたものです。
 残り三つは観測技術が発達してから発見されました。天王星・海王星・冥王星です。遠い天体ですので,肉眼では見つけられなかったのだと思います。
 天王星が発見されたのは18世紀の終わりごろでした。海王星は19世紀の半ばに,そして冥王星は20世紀に入ってから発見されました。この三つも,古代ギリシャ・ローマ神話に由来する名前をもらいました。日本名はその翻訳です。
 写真を見ると天王星は青白い天体で,縞模様も見られず,シャーベットみたいな感じです。海王星も似たすがたをしています。両方とも木星や土星と同じように水素やヘリウムを主成分とするガス惑星なのだそうですが,大気中に含まれているメタンが赤い光を吸収してしまうので,私たちには青い星に見えるのだそうです。分光すると縞模様が現れると聞いています。
 とにもかくにも太陽から遠い星です。太陽を一周するのに,地球は1年ですが,天王星は84年かかります。海王星は165年,冥王星は248年だそうです。こんなに遠い惑星から太陽をみたらリンゴかミカンぐらいにしか見えないのではないでしょうか。いや,ゴルフーボールくらいかもしれません。
 太陽系にある9つの惑星は,どれもみな個性的です。似たところもありますが,それぞれがその星独特のものを持っています。
 そういえば天王星は寝っころがって太陽の周りを回っているようです。
 惑星が太陽を回る軌道は,だいたい同じ平面にあります。この平面のことを黄道面といいます。地球を始めたいていの惑星の自転軸は黄道面に対してほぼ垂直です。ところが天王星の自転軸は,黄道面に対して平行になっています。地球が立っているのだとしたら,天王星は寝ているわけです。昔,大きな星が天王星に衝突し,その弾みで転んじゃったんじゃないかと言われています。
 冥王星は一番外側を回っていると思っていましたら,ときおり海王星よりも,ときには天王星よりも内側に入ってくることがあるようです。他の惑星は,お行儀よく自分の範囲におさまっているのですが。
 つい最近,十番目の惑星を発見したという情報が流れました。セドナと名付けられたその天体は,まだ惑星と確定されていません。冥王星よりもはるか外側にありますが,太陽の周りを回っていることは確かです。
 人間は,見えなかったものを次々と見えるようにしてきました。望遠鏡,顕微鏡などで見る力を大きくし,高感度のマイクロフォンで聞く力を大きくし,スローモーション撮影で動きの細部を見えるようにしました。
 そうかと思えば,今度は見えている事実を積み重ねて,まだ見えていない事実を予測したりします。予測に従って調査し,隠れていた事実を白日のもとに引っ張りだすこともあります。
 こうして,人間は未知の世界へ踏み入り,次々と知見を広げてきました。獲得した知見を活用して,人類のためにさまざまな貢献をしてきました。
 一方では,未知が既知になると同時に,新たな未知に遭遇することになりました。ひとつ分かると,分からないことが100生まれる。そんなふうにさえ思えます。そして人間は飽くことなく,新たな未知へと歩みを進めていくのです。(浪)

 出典:炭酸検協会報(平成17年12月号に掲載)