【随筆】−「マッチ棒パズル」               浪   宏 友


 友人たちと喫茶店に入るとカウンターにマッチが置いてある。これをひとつ貰って席に着く。コーヒーを飲みながら、マッチ棒のパズルを始める。昔はこんなことをよくしたものである。
 マッチ棒は同じ長さである。マッチ棒は直線である。この制約を前提として、さまざまな問題が作られている。
 一番簡単なパズルを紹介しよう。マッチ棒十七本を並べて、横三列縦二列合計六つの正方形を作っておく。ここから左上の二本を取り除くと正方形が五つになる。さらに右上の二本を取り除くと正方形は四つ、そして真ん中下のマッチ棒を一本取り去ると正方形は三つとなる。取り除いたマッチ棒は全部で五本になっている。
 最初の正方形六つの状態に戻して、友人に言う。ここからマッチ棒を七本取り除いて正方形を二つにしてください。但し、正方形に参加していないマッチ棒が残ってはいけません。
 友人は早速マッチ棒を五本取り除いて正方形三つにする。それからあれこれと考えはじめる。すでに五本取り除いてあるからあと二本しか除けない。すると正方形に参加しないマッチ棒が残ってしまう。苦心惨憺している友人を、こちらはにやにやしながら眺めているといった按配である。
 答えは簡単だ。最初の状態から左側の五本を取り除くとマッチ棒十二本で田の字が出来る。中の四本のうち上の一本と右の一本を取り除くと、大小二つの正方形が出来るのである。
 ところが、友人にはある思い込みが出来ている。マッチ棒を順次取り除いて正方形を減らすその続きだという思い込み。正方形は同じ大きさでなければならないという思い込み。この思い込みから抜け出さない限りこの問題は解けない。
 ちょっと意地悪な出題だし、ずるい所もある。最初の状態では小さな正方形が六つのほかに大きな正方形が二つできているがこれには言及しないのである。
 解けなかった友人は悔しがって、逆に翌日マッチ棒パズルを持って来る。マッチ棒十二本をテーブルに並べて正方形を六つ作れと。マッチ棒十二本で田の字を作ると正方形の小さいのが四つと大きなのが一つ、合計五つできている。このとき中のマッチ棒の頭を全部外側にすると、真ん中にマッチ棒の元が集まって小さな正方形が一つできることになかなか気づかない。マッチ棒の断面が正方形であることを利用した問題である。ここまで到達するのに四苦八苦して、友人ににやにやされてしまう。
 こんなことを繰り返していたあの頃は、呑気な毎日だったわけだ。
 マッチは火をつけるために作られたはずなのに、すっかり遊び道具になっていた。パズルばかりではない。工作の材料になっていたり、手品の種になっていたり、その用途はどんどん広がっている。マッチばかりではない。コインやペットボトルやその他のものが、本来の用途を超えて思いがけない使い方をされている。こうなると、本来の用途という言い方は相応しくないかもしれない。最初に意図された用途とでも言いなおしておいたほうがよさそうだ。
 人間の好奇心なのか、創造意欲なのか、遊び好きなのか。こうしたものが混交してのことなのか。いずれにしても、これは人間の重要な性質なのではなかろうか。
 マッチ棒パズルをもう一つ。
 マッチ棒六本で、同じ大きさの正三角形を四つ作ってください。
 答えは、テーブルの上に正三角形を一つ作る。三つの角に一本ずつマッチ棒を立てて上をすぼめると三角錐ができて、正三角形が四つになる。
 平面から離れて立体を思いつく所がこのパズルのポイント。やっぱり、ちょっと、ずるいかな?          (浪)

 出典:炭酸検協会報(平成20年 1月号に掲載)