【随筆】−「さまざまなマッチ」               浪   宏 友


私が普通に見ているマッチは、小箱マッチとブックマッチである。
 小箱マッチの大きさには種々あるが、長さ56o、幅36o、厚さ17oのものが子供の頃に見ていた普通のマッチの大きさであったと思う。近年、この大きさのものには滅多にお目にかからない。
 私が最近目にする小箱マッチは、どれも広告マッチである。広告マッチの長さはやはり56oのものが圧倒的に多い。マッチの軸木の長さで小箱の長さが決まるからであろう。
 広告マッチの厚さは、普通のマッチの半分くらいのものが圧倒的に多い。幅は36oのものが多いが、24o程度と狭いもの、48oと広いものなどいろいろある。この他にも異なった大きさのものがあり、結構種類が多い。
社団法人日本燐寸工業会にご提供いただいた資料によると、小箱マッチには十数種類あるという。
変わった寸法のものでは、長さ42o程度の短いものが数個ある。短軸マッチでタバコ用だという。小箱の断面が正方形のものがたった一つあった。ほぼ17o角である。これを見て思い出したのだが、箱の断面が三角形だったり丸い筒状だったりのマッチ箱を見たことがある。マッチ箱のデザインで楽しんでいるデザイナーがいるのかもしれない。
 そういえば変わり種のマッチの話を聞いたことがある。匂いが出るマッチ、花火みたいにはじけるマッチ、面白いと思ったのは、小枝マッチと極太マッチだ。
 小枝マッチというのは、山の中で採取してきた木の小枝の先にマッチの頭薬を点けたもので、何かの記念品に作ったらしい。見た目にも面白いし雰囲気がある。
 極太マッチというのは、太い軸木を作って頭薬をたっぷりつけたものだ。6分くらい燃え続けるそうだから、野外で火を起こすときなどに使えるという。軸木は太くても燃え易くなければならない。作るのにはちょっとした工夫と苦労がいるようだ。
 このほかにもさまざまな変わりマッチが遊び心から作り出されている。
 広告マッチは、半数がブックマッチである。そういえばブックタイプの家庭用マッチを見たことがない。ブックマッチは、タバコマッチであり、広告マッチであるという印象が私には根づいている。
 子供の頃はブックマッチが何となく格好よく感じられたものだった。
 男の人がブックを開き、マッチをグイッと千切って、さっと火を付ける。そんな姿が、なんとなく魅力的に感じられた。そういえば、昔は千切りマッチと言ったような記憶がある。
 ブックマッチがいつごろ出来たのか資料を探していたら、1892年(明治25年)にアメリカで発明されたという記事に出会った。アメリカ人の好みに合っているのか、すぐに普及したようである。かなり早くから使われていたわけだ。太平洋戦争後、アメリカ軍が日本に進駐していたから、そのときブックマッチが日本に大量に持ち込まれた可能性がある。日本でブックマッチが作られはじめたのは昭和30年(1955)頃のようである。
 この前後からマッチの総出荷量が大きく伸びている。その要因のひとつが、大量に作られた広告マッチである。その波の中でブックマッチも出荷量を伸ばしたのであろう。ブックマッチが広告専用みたいになっていったいきさつが、ここらあたりにありそうである。
 日本中に溢れていたマッチだが、最近は日用品の舞台からすっかり身を引いた感じがする。それでもさまざまなマッチの話を聞いていると、これからも新たなマッチが現れて、新たな舞台で、新たな存在感を示すのではないかと思えて来る。  (浪)

 出典:清飲検協会報(平成20年 9月号に掲載)