【随筆】−「甘い味」               浪   宏 友


 私たちは甘いものが大好きです。
 子供たちは、お菓子とジュースという甘いものセットのおやつに大喜びです。女性たちは、サロンでケーキセットを注文して、話が弾んでいます。男たちだって、なんだかんだ言いながら、和菓子を口に放り込んだりしています。
 人間の生活から、甘いものを除き去ってしまったら、文字通り味気ないものになってしまうでしょうね。
 甘いものが好きなのは、私たち人間だけではありませんでした。
 庭に砂糖を置いておくと、蟻が群がってきます。蟻はいろいろなものを餌にしますが、砂糖も大好きなようです。甘いものが好きな蟻たちは、ある種のアブラムシと共生関係に入ることがあります。草や木の汁を吸ったアブラムシは、お尻から甘い汁を出します。蟻はこれが大好物なのです。アブラムシを食べようとてんとう虫などが近寄ってきますと、蟻が追い払います。あたかも、蟻がアブラムシの牧場を作っているみたいです。このアブラムシが蟻牧(アリマキ)とも呼ばれている由縁です。
 昆虫たちが樹液を求めて集まります。樹液は結構栄養価に富んでいて、アミノ酸、タンパク質、ミネラルなどと共に、ブドウ糖、果糖などの糖分が含まれています。カブトムシやクワガタムシが樹液を争って闘うこともあるんですね。みんな、本当に甘いものが大好きなんです。
 甘いもの好きの昆虫といえば、なんといっても蜜蜂でしょうか。せっせと花の蜜を集めては、巣の中に貯えます。花が終ると、貯えた蜜で生活します。蜜には、貯蔵過程でいろいろな栄養分が付加されます。
 蜂蜜は腐敗しないと聞きました。なにやら糖の濃度が高くなると、細菌が繁殖できなくなるそうです。そのような保存食を作った蜜蜂はすごいと思います。
 花の蜜といえば、蝶々がいました。「ちょうちょう ちょうちょう 菜の葉にとまれ」と歌われている蝶々は、春の風物詩のひとつです。あのくるくると巻いたゼンマイのような口を伸ばして、花の蜜を吸うところを、じっと見ていた子供の頃を思い出します。
 小鳥たちの中にも、花の蜜を求めるものがいます。小さなハチドリが羽根を震わせながら花にくちばしを突っ込んで蜜を吸う。そんな映像を何度か見たことがあります。日本にも、花の蜜が大好きな小鳥がいます。ひよどり、すずめ、むくどりが蜜を吸っているところを見たという人もいました。私も、めじろが蜜を求めて、椿の花を飛び回っているところを伊豆大島で目にしたことがあります。
 甘いもの大好きの私たち人間は、食べ物以外でも甘いものには手が出るようです。
 妖艶な女性の甘い誘惑。危ないと感じながらも離れることができず、次第に身を滅ぼしていく男性の物語を読んだことがあります。甘い蜜には毒があるなどという言葉が、どこかにありましたっけ。
 恋人の耳元でささやく甘い言葉は、二人の愛を深めます。しかし、誠意がこもっていないと、歯が浮くような言葉になってしまってかえって嫌われてしまうこともありますね。
 子供に甘い親は世間に溢れているようです。あんたって、本当にあの娘に甘いんだからと亭主を叱りつけながら、自分はもっと甘い母親だって、珍しくありません。本人たちにはそんな自覚はないのです。知らず知らずのうちに甘くなってしまっているのです。
 一番甘いのは、やっぱり、蜜月でしょうかね。どこかで出会って、愛が育って、甘い仲になって、ついに結ばれた二人。これからの長い愛の日々を夢見ながら過ごす今は、幸せの絶頂です。
 世知辛い世の中と言いますけれど、甘いものだっていっぱいです。どうしてどうして、捨てたものではありません。     (浪)

 出典:清飲検協会報(平成22年2月号に掲載)