【随筆】*「水道水《               浪   宏 友


 清涼飲料水の原料のなかでも、水は決定的に大切です。水の性質が、製品の性質を根本的に左右するに違いないからです。
 実際に使われている水は、どこから来るのでしょうか。
 『最新ソフトドリンクス』(光琳)によれば、「通常、ソフトドリンクス工場における用水の水源は、水道水、井戸水、地表水の三つに大別される《となっています。
 いずれの水でも、私たち消費者がまず求めるのは、安全性です。安全な水といえば、何よりも水道水でしょう。
 多くの人々が水道水で健康に暮らしているという事実はゆるがせにできません。水道水には、水道法によって守られているという安心感があります。
 自宅近くに浄水場があります。興味を覚えて見学を申し込みました。
 北アルプスのすそ野に源流を持つ梓川が、途中の松本で犀川と吊前を変え、渓谷を流れ下って長野市に入ります。
 まもなく千曲川に合流しようとするあたりの河岸に水の取り入れ口が作ってあります。ここから350mほど引き入れて、浄水場の最初の池に水を導きます。
 長い長い旅路を経てきた川の水には、旅の途上のお土産が、たくさん含まれています。残念ながら、このままでは私たちの生活用水としては使うことができません。
 浄水場には、大きな池がたくさん並んでいますが、それぞれに役割が異っています。
 浄水場に入った水は、まず沈砂池に導かれて、砂や大きなゴミが取り除かれます。
 水にはいろいろなものが浮遊物となっていて、これらはこのままでは沈みません。そこで、小さな浮遊物を大きな固まりにして、沈めてしまおうという作業に入ります。
 混和池で、凝集剤といわれる薬品を水に混ぜます。薬品と水をよく混ぜますと、浮遊物がフロックといわれる固まりとなります。フロックを取り除くと、かなり綺麗な水になります。しかし、微細なものはまだ残っています。これらの中には、微生物も数多く含まれているにちがいありません。こうした目に見えないほどの汚れを、砂などで濾過します。
 最後に、薬品を投入して完全に殺菌すると飲料水の出来上がりです。
 出来上がった飲料水は、各家庭に配水されるのですが、途中で細菌などが発生しないように、塩素を混ぜます。塩素は、水道管を流れる間に薄まっていきます。家庭の蛇口から出るときに、ちょうどゼロになっていると良いのでしょうが、なかなかそうもいきませんほんの少し残っているようにと、水道法で定められているのは、生活用水の安全性を確保するためでしょうから致し方ありません。
 浄水場というのは、一大水処理工場という印象です。そこでは最先端の理論に基づき、最先端の技術を駆使して、生活用水を守ろうとしてくれています。人間にとってなくてはならない水。その水を確保し、供給してくれる浄水場は、なくてはならない重要な施設であると、実感が沸きました。
 私の家の蛇口から出る水は、この浄水場で作った水です。遠く、北アルプス槍ヶ岳の裾野あたりからわき出た水を、蛇口をひねるだけで飲んでいると思うと、ちょっと上思議な感じがします。
 何度も引っ越しを繰り返してきた私の経験では、水道水は、それぞれの土地でそれぞれの味がします。これはおおもとの水によって変わってくるのでしょう。水の個性とでもいえばいいのでしょうか。
 ところで、前掲書に、清涼飲料水の原水として、水道水、井戸水、地表水を使うとありました。これらの水の個性を保ちながら飲料適の水とし、それから目的の製品を作るのですから、これは大変な手間ですね。
 私なんか、そんなこと考えもせずに、清涼飲料水を飲んでいました。     (浪)

 出典:清飲検協会報(平成22年5月号に掲載)