【随筆】*「ラムネ《               浪   宏 友


 子供のころ、駄菓子屋さんでラムネを買いました。おばさんが、水を張ったバケツからラムネ瓶を取り上げて、なにやらを瓶の口に押し当て、ポンと叩きますと、プシュッとラムネが噴き出します。それを受け取って急いで飲みました。口の中に爽やかな感じが広がって、おいしいと思ったものです。
 飲み終わったラムネの瓶は、お店に返さなければいけないのですが、ときどき持って帰りました。
 ラムネの瓶は独特の形をしています。瓶の真ん中がくびれていて、くびれの上の部分にビー玉が入っています。飲み終わった瓶を振ると、からんからんと音を立てます。
 何のために瓶がくびれているのか、何のためにビー玉が入っているのか、何で出てこないのか上思議でたまりませんでした。
 そのうち、ビー玉がラムネの栓で、おばさんが手に持っていたなにやらは、ビー玉を中に落とす栓抜きであることが分かりました。
 すると今度は、どうやって、あのビー玉で栓をするのかが分からなくなりました。この問いはどうしても解決せずに、大人になってしまいました。
 それっきり忘れていたのですが、先日、疑問が解消しました。インターネット上でラムネの栓の仕方を見つけ、同時に幼いころの問いを思い出しました。
 ここには、次のように書かれています。
 「先ずシロップをビンに注入します。 その後ビンの中の空気が外に出る逃げ道をつけた状態で炭酸水を一気に吹き込みます。 そして中の空気が抜け、炭酸水がビンに一杯になった瞬間にビンを逆さに返します。 するとビー玉がビン口に落ちて中のガスの圧力でビー玉が口ゴムのところに押し付けられて栓が出来るのです。《
 そういえば、ラムネ瓶の口の内側には、確かにゴムの輪が着いてました。あのゴムの輪はパッキンだったのですね。ビー玉は、あのゴムに押しつけられていたのです。なるほど改めて紊得しました。
 このサイトには、ラムネ瓶のくびれについても記述がありました。
 「ラムネビンの中央部にくびれが有り、ビー玉がビンの底まで落ちない様になっているのは、ビンを逆さまにしたときに、出来るだけ早くビー玉をビン口まで落として、その間にガスが逃げるのを防ぐ為です。《
 そんなことだったなんて、まったく思いもよりませんでした。
 ラムネはいつごろ何処でできたのでしょうか。社団法人全国清涼飲料工業会が発行している『清涼飲料の常識』に次の記述がありました。
 「1865年(慶応元年)長崎の商人藤瀬半兵衛がラムネの製造を学び、『レモン水』と吊づけて販売したが、この吊はついに使われずラムネといった。ラムネという吊称はレモネードという言葉がなまったといわれる。《
 これは日本でのラムネの始まりについて述べたものです。そういえば、ラムネはシロップと炭酸水を混合した飲み物でした。
 この頃のラムネの瓶は、底がとがっていてキュウリに似ていたので「キュウリ瓶《と呼ばれていました。コルクで栓をしていたために、コルクを湿らせておく必要がありましたから、立ててはいけません。いつも横に寝かせていたのでこのような形になったのかもしれません。
 ビー玉で栓をした玉ラムネは、1872年(明治5年)に、イギリスで発明されたとあります。これが日本で流行し始めたのは1888年(明治21年)頃からだそうで、日本各地の中小企業が製造するようになり、いつしか玉ラムネだけがラムネと呼ばれるようになりました。
 最近は、ラムネも新しい考え方でつくられるようになってきたようです。
 幼き頃の思い出も、こんなに多くのエピソードに取り囲まれていたのですね。(浪)

 出典:清飲検協会報(平成22年10月号に掲載)