【随筆】−「炭酸飲料の泡」               浪   宏 友


 清涼飲料水の重要なジャンルに、炭酸飲料があります。私も炭酸飲料が大好きで、よく飲んでいます。
 日本農林規格では、飲用適の水に二酸化炭素を圧入したものと、これに甘味料、酸味料、フレーバーリング等を加えたものが炭酸飲料であると定義しています。
 ポイントは、圧入された二酸化炭素、すなわち炭酸ガスにあることは確かです。炭酸ガスを水に圧入すると、何が起きるのか学んでみました。
 『最新ソフトドリンクス』(株式会社光琳、15年9月30日発行)は、炭酸ガスの溶解度について、次のように述べています。
 「清涼飲料業界では、標準状態(1気圧、0℃)において、飲料に溶けている炭酸ガスの体積の飲料の体積に対しての比を表したものを、ガスボリュームと呼んでおり、飲料中の炭酸ガスの含有量を表す単位としている」
 0℃、1気圧の水1Lに、炭酸ガスが1L溶けていたらガスボリュームは1ということです。
 コンビニの棚に、500mLの炭酸水のボトルがならんでいました。このガスボリュームが3.5なら、1.75Lの炭酸ガスが溶け込んでいるわけです。
 500mLと1.75Lを合わせると、2.25Lになるはずですが、炭酸水は500mLのボトルに納まっています。気体が圧縮されているのです。ガスボリュームが3.5ということは、ふたを開ける前のボトルの中は、約3.5気圧ということだと思います。
 3.5気圧という高い圧力で押さえ込んでいるものが、ふたを開けたとたんに、押さえる力が1気圧に下がります。すると、押さえつけられていた炭酸ガスが一気に、爆発的に吹き出して来そうなものですが、そういうことにはなりません。
 炭酸水のビンのふたを開けると、プシュッと軽い音を立てます。このプシュッは、ビンのトップで、ふたと炭酸水の間にたまっていた少量の炭酸ガスが吹き出しただけのようです。炭酸水に溶けている炭酸ガスが出てくるのではないようです。それじゃ、炭酸水の中の炭酸ガスはどうしちゃったんでしょうか。
 炭酸水を透明なグラスに注ぎますと、シュワ−と泡が出ます。乱暴に注ぎますと、泡の出かたが盛んになります。どうやら炭酸水に刺激を与えると、炭酸ガスが出てくるようです。しかし、これですべての炭酸ガスが、出きってしまうわけではありません。
 泡が落ち着いたグラスをテーブルに置きっぱなしにしておきますと、グラスの底から小さな泡が立ち上ることがあります。しかも、決まった場所から、間断なく立ち上り続けています。これがまた不思議です。なんでだろうとずっと思い続けていました。
 炭酸ガスの分子が水の中に入ると、一部は水分子と結びついて炭酸になります。この炭酸によって、炭酸水は弱酸性を示すことになります。それで炭酸飲料というのでしょう。
 しかし、ほとんどの炭酸ガスは、炭酸にならずに、水分子と水分子の間のすきまにもぐり込んでしまいます。これが溶けるということなんですね。水に溶け込む炭酸ガスの量は、水が冷たいほど多くなり、気圧が高いほど多くなります。ガスボリューム3.5というようなときは、水分子と水分子のすきまに、炭酸ガスが押し込められている状態で、いわばギュウギュウ詰めなんでしょう。
 この状態でも水分子がおとなしくしているときは炭酸ガスもおとなしくしていますが、水分子が動き出したり、何か手がかりがあったりすると、炭酸ガスが動きだすようで、これが発泡なんですね。グラスの内面に小さな傷でもあったりしますと、それが手がかりとなって発泡するわけです。
 普段は気にも止めない小さな現象が、私にいろいろなことを教えてくれました。(浪)

 出典:清飲検協会報(平成23年4月号に掲載)