【随筆】−「ミネラル」               浪   宏 友


 ずいぶん前のことですが、化学を専攻する友人が、ミネラル、ミネラルって言うけれど、ミネラルにもいろいろあるんだよと語っていました。そのときは、ほう、そうなのか程度で聞き流していましたが、最近になってその言葉を思い出しました。
 改めてミネラル(mineral)を英和辞典で引いてみると、「鉱物」と出てきました。これに対比される言葉は、動物(animal)、植物(plant)です。もともとは、地質学や鉱物学の分野で用いられてきた言葉のようです。
 鉱物学における一般的な定義として、鉱物(ミネラル)とは「天然に産出する無機質で一定の化学組成と結晶構造を有する固体物質である」と言われているそうです。
 私たちが日頃考えているミネラルは、栄養学的なミネラルで、鉱物学におけるミネラルとは区別して取り扱われていました。栄養学的なミネラルは、無機質とも呼ばれています。
 人間が生きていく上で、身体に必要な栄養素があります。私は、タンパク質、炭水化物、脂肪が三大栄養素であると記憶していました。
 これにビタミン、ミネラルを加えて五大栄養素と言われるようになりました。最近は食物繊維を加えて六大栄養素とも言うようです。身体の健康を維持していくために必要なものが、だんだん解明されてきたということなのでしょう。
 水分はなくてはならないものですが、栄養素には加えられていません。私たち人間が食を断ったら生命を失いますが、水を断ったらもっと早く生命を失います。水分は別格なのかもしれません。
 三大栄養素のうち、炭水化物と脂肪は、水素・炭素・酸素でできています。
 タンパク質は、20種類のアミノ酸でできていますが、アミノ酸は、水素・炭素・酸素と窒素でできています。
 食物繊維はセルロースのような細胞壁で、炭水化物の仲間ですから、水素・炭素・酸素でできています。ビタミンも有機物なのだそうで、水素・炭素・酸素でできているようですが、窒素や他の元素が結びついているものもあるようです。
 水はもちろん、水素と酸素でできています。
 こうしてみると、人間の体のほとんどは、水素・炭素・窒素・酸素の四つの元素で構成されているわけです。これほど複雑な私たちの体が、元素レベルで見ると、こんなに単純なものだったのですね。
 ところが、これだけでは人間は生きていけません。必須のもののひとつがミネラルです。もちろんこの場合は栄養学的な意味でのミネラルです。
 厚生労働省ではミネラルとして12の成分を示しています。亜鉛・カリウム・カルシウム・クロム・セレン・鉄・銅・ナトリウム・マグネシウム・マンガン・ヨウ素・リンです。
 この中で、カルシウムやリンは骨の材料、鉄は赤血球に含まれている、ヨードは甲状腺ホルモンと関係がある程度の、断片的な知識はあるのですが、ミネラルの本当のはたらきは、私にはよくわかりません。
 ミネラルは、人間の体内では作れないので、食物によって摂取するしかないとのこと。無ければ体の具合が悪くなるし、摂りすぎてもいけないんだと言われます。ものによっては、本当に微量でいいのですが、どうしても必要なのです。
 私は、ミネラルを意識して摂取したことがほとんどありません。さまざまな食物を通して、いつのまにか摂っているのでしょうか。
 そういえば、乳製品にはカルシウム、リンなどが、ココアやチョコレートには銅が、バナナにはカリウムが多く含まれていると、教えてもらったことがあります。
 こうして考えてみると、どこから、どのようにして来るのか分からないミネラルに、こんなにお世話になっているなんて、本当に不思議だなぁと思います。(浪)

 出典:清飲検協会報(平成23年6月号に掲載)