【随筆】−「ストロー」               浪   宏 友


 馴染みの喫茶店で、ホットコーヒーを注文しました。連れは、オレンジジュースを注文しました。しばらくしてコーヒーとオレンジジュースが運ばれてきました。ジュースにはストローが添えられています。
 思えば、ストローもずいぶん様変わりしてきました。私の子どもの頃は、ストローといえば、麦わらで作ったものしかありませんでした。
 英語の「straw」は「麦わら」のことです。麦を収穫するとあとに麦わらが残ります。麦わらは中空です。乾燥させてから、適当な長さに切りますとストローになります。麦わらのストローは、今も商品として作られているそうですがなかなかお目にかかれません。
 先日、若い方に「ストローって、麦わらのことだよ」と言ったら、なかなか信じてもらえませんでした。若い方々には、ポリプロピレンで作った中空の細い管が、ストローなのであって、ほかには考えられないのでした。説明に困ったあげく、麦わら帽子をストローハットと言うだろうと説明したら、なんとか納得してくれました。
 麦わらのストローは、細くて真っ直ぐで、曲げると折れてしまいます。ポリプロピレン製のストローのなかには、途中が蛇腹になっていて、好きな方向に曲げることのできるものがあります。真っ直ぐなストローだと、グラスの真上から飲む格好になりますが、蛇腹があれば、横の角度から飲むことができます。
 これを二本束ねて、向かい合わせにジュースを飲まされている新郎・新婦がいました。誰の発案ですかね。
 細めのストロ−が太めのストローに納まっていて、使うときに引き出して長くする。そういう仕掛けも、ポリプロピレン製だからできるんですね。二段式の伸縮ストローが代表的で、パックや缶の脇に張り付けられたりしています。
 果肉入り飲料などのための太いストローがあります。吸うと、果肉が口の中に飛び込んできます。
 栄養ドリンク用の細いストローもあります。
 かき氷用のストローというのがあって、先端がスプーンになってます。
 ストローは使い捨てです。ゴミとなるストローの量も大変なものだと思います。地球環境問題にもなりかねません。これを心配して登場したのが、植物を原料とした生分解性樹脂のストローです。これなら生ゴミと一緒に捨てても、土に戻りますから、環境汚染の心配が少なくなります。
 これからまだまだ用途も広がり、工夫も深まりそうです。ストローの進化はとどまるところを知らないかのようです。
 こんなに便利に使われているストローですが、その歴史を振り返ると、ずいぶん昔に遡ります。
 資料によれば、古代メソポタミアで、ビールが作られていた記録があるそうです。当時のビールは、今のビールのように澄んではいませんでした。固形の混ざりものが浮かんでいたり、沈んでいたりしていました。こうした沈殿物や浮遊物をよけて飲むために、ストローが使われていたようです。このときのストローは、葦(あし)で作られていました。
 そんな話をしていたら、友人から、マテ茶を知っているかと聞かれました。マテ茶は南米のお茶で、マテ壷とボンビージャを使うんだということを初めて知りました。ボンビージャは、先端に茶漉が付いたストローと思えばいいようです。
 マテ壷にお茶の葉を、半分から三分の二ぐらい入れるそうです。そこにお湯か水を注ぎます。茶葉が湿ってきたらボンビージャの茶漉のほうを差し込んで、吸って飲みます。
 日本のお茶同様に、マテ茶にも作法や美味しい飲み方があるそうです。
 ストローには、まだまだ、隠れたお話しがありそうですね。(浪)

 出典:清飲検協会報(平成23年10月号に掲載)