【随筆】−「粉末飲料」               浪   宏 友


 子供の頃、粉末ジュースを楽しんだ思い出があります。駄菓子屋で、色のついた粉が小さな袋詰めになっているのを買って帰って、コップで水に溶かして飲んだものです。
 錠剤みたいに固めたサイダーもありました。コップで水に溶かしてもよし、いきなり口に入れてもよし。ひとつひとつ大切に味わいました。こんな他愛もないことが結構しあわせでした。
 そのころは、美味しそうな色のついた飲み物のことを、私たちはジュースと呼んでいました。粉末ジュースも、立派なジュースだったわけです。
 本来のジュースがどういうものかを知ったのは、いつだったか、「100パーセント果汁のものだけが、ジュースと名乗って良い」というような記事に出会ったときです。
 果汁ジュースと、果汁が入っている飲料と、果汁は入っていないけれども、果汁の色をした飲料と、さまざまあったんですね。私の中では、みんな一緒くたでした。
 最近の私は、妻の買い物のお供をすることがあります。ショッピングカートを押しながらついて歩くのですが、途中でいろいろなものが目に入ります。清涼飲料水のコーナーでも、よくもこんなに種類があるものだと目を見張ります。
 そんな中で、粉末スポーツドリンクが目に入りました。そうだ、そうだ、こんなものがあったんだっけ。
 私は以前に、粉末スポーツドリンクのお世話になったことがあります。運動の苦手な私が取り組んだ唯一のスポーツが、ボウリングでした。毎日のようにボウリング場に通っていましたが、お供に、粉末スポーツドリンクを溶かした水をボトルで持参していました。汗をかいては一口飲み、またレーンに向かいました。懐かしい思い出です。
 スーパーマーケットで粉末スポーツドリンクを見つけてから、急に粉末飲料が気になり始めました。すると、あるある、思いがけなくたくさんの粉末飲料があることに気づいてしまったのです。なかには、いまさら粉末飲料だなんて言ったら、申し訳ないようなものまでありました。
 粉末を水やお湯に溶かすと飲料になるものが粉末飲料だとすれば、一番馴染み深いのが、実はインスタントコーヒーだったんです。ぜんぜん、思い浮かびませんでした。
 粉末飲料といえば、駄菓子のたぐいしか私の頭になかったせいだと思うんですが、子供の頃のあの思い出が、深く染みついていたからかもしれません。
 それにしても、よくよく見ると、粉末飲料には、いろいろなものがあるんですね。
 子ども向けの駄菓子系粉末ジュースがありました。大人向けの嗜好品的なものも、もちろんあります。健康食品的な粉末飲料も結構あります。
 こうしてみると、粉末飲料は、ひとつの大きなジャンルだったんですね。
 粉末飲料は、持ち歩きが便利です。液体飲料を10本持って歩くのと、粉末飲料10袋持って歩くのとでは、とにかく重さがちがいます。
 粉末飲料は保管も楽ですね。ちょっとした片隅に置いておけばよい。冷蔵庫で冷やしておく必要はありませんし、場所もほとんど取りません。そのかわり、仕舞っておいたものをすぐ忘れてしまう私には、要注意のところもあります。
 粉末飲料に似たものに、ティーパックがありました。紅茶パック、緑茶パックなどは、ビジネスホテルでよくご厄介になっています。烏龍茶パックもあるそうですが、まだお目にかかっていません。
 そうそう、究極の粉末飲料がありました。抹茶です。古代中国に淵源をもち、栄西禅師が日本にもたらしたと伝えられる抹茶は、粉末飲料の嚆矢かもしれません。(浪)

 出典:清飲検協会報(平成23年11月号に掲載)