【随筆】−「自動販売機」               浪   宏 友


 ええーっ、これも自動販売機の仲間だったんですか!?
 スイカやイコカなどの愛称で呼ばれている鉄道用のICカードで、ピピッと通過する自動改札のことです。言われてみれば、自動的にお金を払って改札を入り電車に乗るわけですから、やっぱり自動販売機なんですね。
 乗車券を買う券売機ですら、自動販売機だなんて意識はありませんでした。すっかり生活の中に溶け込んでしまったためでしょうか。
 改めて町を眺めますと、自動販売機が林立していることに気付きます。切手やハガキ、新聞や雑誌、歯ブラシやひげそり。いやいや、下着あり、野菜あり、花ありで、どうやら、なんでもありですね。
 スーパーに行くと、ガチャポンが置いてあります。子供用の自動販売機では、古典に属するでしょうか。なにがしかのコインを入れて、ハンドルをまわすと、小さなカプセルに入ったおもちゃが出てきます。何が出てくるのかは機械任せですから、子供からみれば、ちょっとしたギャンブルかもしれません。
 私の自動販売機のイメージには、なかなか入ってきませんけれど、やっぱり自動販売しているものが結構あります。
 飛行場には、自動で保険の申し込みができる機械がありました。
 コインロッカーは物品販売ではありませんが、ものを預かってくれるのですから、サービスの販売になると思います。
 田舎道を通りますと、ちっちゃな台の上に野菜が置いてあって、値段が書いてあります。箱にお金を入れて野菜をもらって帰ります。これは自動販売機ではないけれど、趣旨は似たようなものだと思います。
 自動販売機は最近のものと思っていたら、一般社団法人日本自動販売機工業会のホームページに、こんな記事がありました。
 「紀元前215年頃にエジプトのアレキサンドリアの寺院に置かれた聖水自販機が世界で最初の自販機と言われています。」
 聖水というのは、神さまのもとで清められた水のことだと思います。これにお金を払って持ち帰るのだとしたら、日本のお寺や神社でいただく御札のような意味があるんでしょうか。その聖水を自動販売する仕掛けが、考案されていたわけです。
 日本には「おみくじ」と書いた赤い箱が置いてある神社があります。「おみくじ」の自動販売機です。明治時代に最初のものが作られたそうで、日本の自動販売機の草分け的な存在かもしれません。
 明治21年には俵谷高七が考案した箱入り商品を販売する自販機が作られていたそうです。俵谷高七は、明治37年に、切手とはがきの自動販売機である「自働郵便切手葉書売下機」を作ったそうです。現物が逓信総合博物館に展示してあるとか。「自動」ではなく「自働」なんですね。
 日本自動販売機工業会は、日本国内で使われている自動販売機の普及台数などを発表しています。2010年には520万台を超え、自動販売機で売り上げた金額が5兆4千億円を超えています。それでも、ここ数年、減少傾向にあるのだとか。  私が町に出て一番目につく自動販売機は、やっぱり清涼飲料水です。清涼飲料水の自動販売機は、大きく分けて二つあるんですね。缶・ボトル・紙パックなどの形で販売するタイプと、カップ式のものです。
 カップ式は、自動販売機の中に水・炭酸ガス・シロップなどを仕込んでおいて、コインが投入されたときに、大急ぎで製品を作って、カップに注ぐという仕掛けですから、言ってみれば、清涼飲料工場と販売店をひとつにまとめて、駅のホームに建てたようなものだと思いました。
 自動販売機は、生活の利便性を高めていることも事実です。これから、順調に発展してくれるといいなあと思います。(浪)

 出典:清飲検協会報(平成23年12月号に掲載)