【随筆】−「サムソンとデリラ」               浪   宏 友


 旧約聖書の士師(しし)記には、イスラエルの人々を、支配者から解放して繁栄をもたらしてくれた士師(リーダー)たちの姿が語られています。士師記に登場する最後の士師が、サムソンです。サムソンとデリラの物語は著名な画家たちによって絵画に描かれたり、オペラとして演じられたり、映画が作られたりしています。
 サムソンの母がサムソンを身ごもったとき、主の使いが現れて、生まれてくる子の頭にかみそりをあててはならないと告げました。神から特別な任務を受けているからなのでした。
 そのころ、イスラエルの人々はペリシテの人々によって支配されていました。
 成人したサムソンは、ある事件をきっかけに、もちまえの腕力でペリシテ人を打ちのめし、イスラエルのリーダーとなりました。その力は並外れていましたから、誰も太刀打ちできないのでした。
 ところがサムソンは、こともあろうにペリシテ人の女デリラを愛するようになりました。このことを知ったペリシテ人は、サムソンの力がどうすれば弱くなるのかを聞き出して欲しいと、デリラに頼みました。
 デリラはサムソンに聞きました。あなたの力はどこから出てくるのですか。どうすれば出なくなるのですか。サムソンは答えました。乾いたことのない7本の新しい弓弦をもって縛れば、私は弱くなってしまう、と。
 ペリシテ人は、乾いたことのない7本の弓弦を持ってきて、デリラに渡しました。デリラはこれでサムソンを縛ります。そしてサムソンに言いました。ペリシテ人が来ます。あなたを倒しに来ます。するとサムソンはたちまち弓弦を断ち切ってしまいました。
 デリラはサムソンを責め、本当のことを言いなさいと迫りました。サムソンは答えました。一度も使ったことのない綱で縛れば、私は弱くなってしまう。
 ペリシテ人は、新しい丈夫な綱をデリラに渡しました。デリラはこの綱でサムソンを縛り、そして叫びました。ペリシテ人が来ます。あなたを倒しにきます。するとサムソンはその太い綱をやすやすと切ってしまいました。
 デリラは怒りました。いい加減に本当のことを言いなさい。サムソンは答えました。私の髪の毛を機の縦糸と一緒に織って釘で止めておけば、私の力は弱くなってしまう。
 サムソンが眠った隙に、デリラはサムソンの髪の毛を機の縦糸に折り込み、釘で止めました。そして耳元で叫びました。ペリシテ人が来ます。するとサムソンは釘と機と縦糸を引き抜いて立ち上がりました。
 デリラは激しく詰め寄りました。あなたは私を愛しているといいながら、三度も私をだましました。本当に私を愛しているのなら、真実を言いなさい。
 剣幕に負けて、サムソンはついに、髪を剃り落とされたら力がなくなってしまうと、自分の弱点を明かしました。
 サムソンがデリラの膝で眠ってしまったとき、ペリシテ人を招き入れて、髪の毛を剃り落とさせました。そして、言いました。ペリシテ人が来ます。あなたを倒しにきます。
 サムソンは目を覚まし、立ち上がろうとしましたが、たちまち取り押さえられて、両目をえぐられ、牢獄に入れられてしまいました。
 ペリシテ人の神ダゴンの祭りの日、集まった大勢の人々は、サムソンを笑いものにしようと牢獄から引き出しました。巨大な神殿に引き出されてきたサムソンは、一番太い柱に寄り掛からせてもらいました。
 牢獄につながれている間に髪の毛が伸びて、力がよみがえっていたサムソンは、神を祈りながら大柱を倒しました。神殿は崩れて、集まっていた大勢のペリシテ人たちはサムソンと共に瓦礫の下敷きになりました。
 サムソンは、人並みはずれた力を持ちながら自分を律することができず、情に流されて身を滅ぼしてしまったのでした。(浪)

 出典:清飲検協会報(平成24年10月号に掲載)