【随筆】−「氏神さま」                浪   宏 友



 「中国地方の子守唄」に「明日はこの子の宮参り」という歌詞があります。誕生して間もない赤ちゃんが、土地の神さまにはじめてお参りをする儀式が宮参りです。無事に誕生させていただいた感謝と、健やかに育ちますようにとの願いを込めて、神さまにお参りをするのです。
 この歌詞では、赤ちゃんが誕生してから二十六日目にお宮参りをするようです。
 華やかなお祝い着に身を包んだ赤ちゃんが、お婆ちゃんに抱かれ、お母さん、お父さん、お爺ちゃんたちに付き添われて、鳥居をくぐり神殿にお参りします。神主さんにお祓いをしていただくこともあります。
 こうしてお宮参りをする神社は、氏神(うじがみ)さまでしょうか。産土神(うぶすながみ)さまでしょうか。それとも鎮守(ちんじゅ)の神さまでしょうか。私の中では、この三つの神さまがごちゃごちゃになっていて整理がつきませんでした。
 古い時代、同じ先祖を持つ血縁集団を氏族と言いました。歴史を学ぶと物部氏とか、蘇我氏とか、いろいろな氏族が登場します。
 氏族とは要するに家族・親類・縁者の集団です。大きな氏族が同じ地域に住んで、政治的にも、経済的にも、社会的にも協力するという体制が取られていたようです。
 氏族は軍事的にも一体感があって、外敵に襲われれば、一族が力を合わせて戦いました。氏族のだれかが他の土地に移り住んだりしても、一族との深いつながりを保ち続けることもありました。
 そうした氏族には先祖代々祀ってきた「氏族の神」がありました。これが氏神さまだったのです。
 そう言われて見れば、氏神さまは「氏(うじ)」の神さまです。「氏」は、現代では「名字」のことです。いうなれば、同じ名字を持つ一族の守り神が氏神だったのです。
 氏神さまは、氏族の精神的な拠り所であり、守護神でもありました。
 氏族は同じ地域に暮らすことが多かったので、氏神さまがその地域を護る土地神さまになったのも自然なことでした。
 長い歴史の中で、氏族の栄枯盛衰が進むうちに、氏神さまから氏族を護るという側面が失われ、いつしか、土地を護る神さまになりきってしまったようです。私などは、子供のころから、氏神さまは、土地の神さまのことだとすっかり思い込んでいました。
 空き地の真ん中に竹が4本正方形に立てられ、しめ縄が張られ、中に祭壇が作られていますと、ああ、地鎮祭だな、家が建つんだなと思います。
 地鎮祭とは、家を建てるに際して、その土地を司る神さまを鎮め、工事の安全を祈り、さらにはこの土地で安らかに暮らしていけるようにお願いする儀式だと思います。
 土地を司る神さまを、産土神と言います。産土とは、土(すな)を産(う)むということです。産土神は、その土地に生育する作物、植物、河川、その他の自然物を生み出す神さまです。また、その土地に住み生活する人間の生活全般を守ってくださる神さまです。その意味で、地鎮祭でお祭りする神さまは、産土神に違いありません。
 「村祭り」という唱歌があります。“村の鎮守の神様の/今日はめでたいおまつり日”と始まります。
 村の鎮守の神さまは、村で人々を苦しめる悪い霊を押さえて静かにさせたり、農業などの産業が滞りなく行われ、人々が豊かになるように守ってくださる神さまです。
 そうしてみると、氏神さまも産土神さまも、鎮守の神さまだったのです。これでようやく私の中でも、神さまの整理がつきました。
 町を歩いていますと、小さな祠を見かけることがあります。どんな神さまが祀られているのか分かりませんが、なんだか、ほほえましい感じがします。(浪)

 出典:清飲検協会報(平成29年4月号に掲載)