【随筆】−「怪鳥ズー」                     浪   宏 友


 ニップルの町には、嵐の神エンリルに捧げられた神殿がありました。
 エンリル神は、ズーという巨大な怪鳥に宮殿を守らせていました。この宮殿には、神々の会議場があり、天の神アヌ、智慧の神エアをはじめ、大勢の神々が訪れました。
 この神殿には、“天命の書板”という神宝があり、これを持つ者が神々と万物を支配できるのでした。
 怪鳥ズーは、この書板を奪って、自分が神々と万物を支配したいと思い始めましたが、それに気づく神はいませんでした。
 ある日、嵐の神エンリルが水浴びを始めました。この隙を狙って、怪鳥ズーは、“天命の書板”を掴み、空高く飛び上がり、故郷の聖峰へ飛んで行ってしまいました。
 慌てた神々は、すぐに会議を開きました。ただでさえ大きな力をもつ怪鳥ズーが“天命の書板”を持って行ってしまったのです。簡単に取り返せるものではないことは、誰の目にも明らかです。
 神々は、まず、天候神アダドに言いました。
 「アダドよ、お前には力がある。ズー鳥を倒せ、“天命の書板”を取り返して来い」
 しかしアダト神は言いました。
 「まだ誰も行ったことのない聖峰に、どうやっていくのですか。“天命の書板”を持つ者と、どうやって戦うのですか。さからう者はたちまち粘土にされてしまいますよ」
 これを聞いて神々は黙ってしまいました。
 女神イシュタルも、イシュタルの息子シャラも、神々から声をかけられましたが、引き受けませんでした。
 万策尽きた神々は、ここはやはり、知恵の神エアの意見を聞くしかないということになりました。
 神々の会議に招かれたエア神は、しばらく考えていましたが、これをやってくれるのは、戦いの神ニンギルスだけでしょうと言いました。そして、私が働きかけてみましょうと立ち上がりました。
 エア神は、ニンギルス神の母である女神マハを訪ねました。エア神は、事情を話して、言いました。
 「あなたの愛するニンギルス神こそ、最高の力を持つ者です。彼こそ、七つの風を武器として、いかなる敵も破る者です」
 女神マハは、この言葉に喜び、急ぎ息子のニンギルス神を呼び寄せました。
 「おまえは私のために、そして神々のために、七つの風を武器として、悪者のズー鳥を倒しなさい。私も、荒れ狂う風で、お前を助けます」
 ニンギルス神は、母神のことばを聞いて勇気がみなぎり、怪鳥ズーの住む聖峰目指して旅立ちました。この姿を見て、後ずさりしていた神々も随いました。
 ニンギルス神が近づいてくるのを見た怪鳥ズーは、聖峰に姿を現し、怒鳴りました。
 「私は“天命の書板”を奪い取った。私に敵う者はいない」
 ニンギルス神も大声で返しました。
 「私はエア神から力を授かり、お前と戦うためにきた」
 戦いが始まりました。
 ニンギルス神が矢を放ちますと、怪鳥ズーはなんなくはじき返しました。ニンギルス神は、武器を持って激しく打ち合いましたが、次第に押し戻されました。天候神アダドが雷鳴を轟かせますと、怪鳥ズーが少したじろぎました。しかし、すぐに立ち直り、大きな翼を一杯に広げて威嚇しました。
 広げた翼を見たニンギルス神は、持っている限りの強い風を、怪鳥ズーに向けて、ありったけ吹き付けました。怪鳥ズーは、翼いっぱいに風を浴びせられて、たまらず吹っ飛び、岩山に叩きつけられました。
 ようやく戦いが終わりました。“天命の書板”も取返しました。神々はようやく安堵したのでした。(浪)