【随筆】−「ギルガメシュとエンキドゥ」                     浪   宏 友


 古代の南メソポタミアにウルクという都城がありました。シュメール地方とバビロニア地方の境目あたりに位置していて、この辺りの中心的な存在だったようです。
 古代メソポタミアの歴史によれば、ウルク第一王朝の第三代の王ルガルバンダと、その妻である夢解きと知恵の女神ニンスンとの間に生まれたギルガメシュが、第五代の王となりました。
 この王と関係があるかどうかは分かりませんが、メソポタミア神話にも、ギルガメシュという王が登場します。
 都城ウルクでギルガメシュが誕生したとき、神々は、これを祝福しました。太陽神シャマシュは、彼に美しいすがたを授けました。嵐の神アダトは、彼に男らしさを与えました。そして、神々は、彼の三分の二を神、三分の一を人間と定めました。
 成長したギルガメシュは、自分の力を誇るあまり、傲慢になり、家来や市民に乱暴を働きました。父親から息子たちを奪っては家来にし、母親から娘たちを奪っては宮殿に入れました。あまりのことに、ウルクの人々は我慢できなくなり、天神アヌに、何とかしてくださいと頼みました。
 天神アヌは創造の女神を呼び、ギルガメシュと同等の力を持つ者を創らせました。女神は、粘土で山男を創ってエンキドゥと名付け ました。戦いの神がこれに力を与えました。エンキドゥは、都城ウルク郊外の野原で動物たちとともに暮らしました。
 ある日、都城ウルクからひとりの狩人がやってきて、野原の水飲み場のそばに罠を仕掛けました。数日たって罠を見に行きますと、大きな獣がかかっているのが見えました。喜んで近寄ろうとすると、そこに大男が現れて罠を引きちぎり、獣を逃がしてしまいました。
 恐れをなした狩人は、都城ウルクに駆け戻り、ギルガメシュにこのことを報告しました。ギルガメシュは、狩人に一人の魅惑的な宮女を伴わせ、大男を誘い出すように命じました。狩人と宮女は野原の水飲み場の近くで大男を待ちました。
 数日の後、大男が、動物たちを伴って現れました。狩人と宮女は、恐ろしさに体がすくみました。それでも宮女は勇気を振り絞って、大男の前に姿を現しました。大男は、艶やかな宮女を見ると、電撃に撃たれたようになりました。これを見た動物たちは、たちまち逃げてしまいました。宮女が誘うと、大男は、魔法にかかったようについてきました。
 都城ウルクの城外まで来たとき、ギルガメシュが城門を開いて出てきました。それを見た大男は我に返りました。
 ギルガメシュが、「俺はギルガメシュだ。お前を退治してやる」と怒鳴ると、大男も怒鳴りました。「俺はエンキドゥだ。お前なんかに負けるものか」
 二人は取っ組み合いを始めました。都城ウルクの人々が二人を遠巻きに囲みました。
 二人は、怒り狂う牛のようにぶつかり合いました。火を噴く竜のように、叫びました。牙を くライオンのように、上になり下になりしました。
 ついに二人は地べたに仰向けになって、激しく息を弾ませました。
 ギルガメシュが、大声で言いました。「お前は大牛のように強い」
 エンキドゥも、大声で答えました。「あんたが、神々から王の位を授けられたのももっともだ」
 二人は、起き上がり、近づき、抱き合いました。周りを囲んでいたウルクの人々は、歓声を上げて二人を讃えました。こうして二人は、切っても切れない親友となったのです。
 エンキドゥという無二の親友を得たギルガメシュは、それ以来、家来にも、ウルクの人々にも、乱暴を働かなくなりました。
 このあと二人は力を合わせて、数々の困難に立ち向かい、克服しました。   (浪)