【随筆】−「フンババ退治」                     浪   宏 友


 都城ウルクでは、神殿や宮殿を建てるにも、日常の生活のためにも、材木は無くてはならないものでした。しかし、近くでは手に入りません。はるか北方にある杉の森まで、片道45日の旅をして、材木の切り出しに出かけなければなりませんでした。
 ところが、その杉の森には、フンババと呼ばれる恐ろしい怪物が住んでいて、杉を切り出そうとする人びとに害をなすのでした。
 これを聞いたギルガメシュは、フンババを退治しなければならないと考えました。それは、都城ウルクの王としての使命でもありましたが、同時に強い相手を求める気持ちの高ぶりでもありました。
 ギルガメシュは、親友のエンキドゥに、一緒に行ってもらいたいと相談しました。しかし、エンキドゥは、すぐには返事をしませんでした。エンキドゥは、ギルガメシュと出会うまでは、野獣とともに暮らしていましたから、何度かフンババを見ているのです。
 「怪物フンババの叫び声は、大洪水のとどろきのようだ、その口は火を吐き、その息は死を呼ぶ」
 エンキドゥの話しを聞くと、ギルガメシュは、ますますフンババを見たくなりました。ギルガメシュの気持ちを知ったエンキドゥは、それならと同行することを承知しました。
 ギルガメシュは武器つくりの職人に、特別な武器をつくらせました。重い斧は大木を一撃で倒せるものでした。大きい剣はいかなる敵でも打ち伏せることができるものでした。
 ギルガメシュが出かけようとすると、ウルクの長老たちが止めました。フンババと闘うのはお止めなさい。生命を捨てに行くようなものだ。
 それでもギルガメシュの決心は変わりません。その様子に長老たちは、さまざまな注意を与え、励ましながら送り出しました。
 ギルガメシュとエンキドゥは、ふつうの人なら45日かかる道のりを、3日で行ってしまいました。
 二人は、杉の森の前に立ちました。森の入り口には、フンババの手下の怪物たちが群がっています。これらの怪物を手もなく倒すと、二人は杉の森に入りました。
 広大な森の中に道がありました。フンババの住み家に続く長い道でした。この道を行くうちに日が暮れました。ふたりはそこで夜を明かしました。
 翌日、ギルガメシュは、重い斧で杉を切り倒しながら森の奥に進み、ついにフンババの住み家にたどり着きました。
 そこには巨大なフンババが、山のように立って、こちらを見下ろしていました。巨木のような足で大地を踏み鳴らし、岩石を押し流す洪水のようなとどろきで叫びました。
 「山の杉を切り倒しにきたのは誰だ」
 フンババの恐ろしい姿に、ギルガメシュとエンキドゥは息を呑みましたが、気を取り直すと、太陽神シャマシュに祈りを捧げ、フンババと闘い始めました。一進一退、どうしても倒すことができません。何度も危ない目に遭いました。
 これを見た太陽神シャマシュは、強風、熱風、寒風など八つの風を呼び、フンババに吹き付けました。さしものフンババも目を開けていられません。ギルガメシュたちの攻撃を受けきれなくなりました。
 フンババは叫びました。
 「私の負けだ、ギルガメシュよ、助けてくれ、お前の家来になる」
 エンキドゥは、言葉に惑わされるなと叫びました。ギルガメシュは、斧を振り下ろし、フンババの首を落としました。
 群がるフンババの手下たちを蹴散らして、二人は杉の森を出ました。
 二人は意気揚々と、都城ウルクに戻りました。ギルガメシュとエンキドゥの姿を見たウルクの人たちは喜びの声をあげ、二人は歓呼に応えました。(浪)