【随筆】−「不死を求めて」                     浪   宏 友


 親友エンキドゥを黄泉の国に送ったギルガメシュは、死にたくない、つまでも生きていたいと思いました。しかし、どうすればいいのか分かりません。
 ある日、旅人から、地の果てに住むウトナピシュティムが永遠の命を生きていると聞き、この人を訪ねることにしました。
 都城ウルクを出立して、地を行き、海を渡り、年月をかけてようやく双子山マーシュ山に到着しました。そのふもとに地下への道がありましたが、門は閉じています。門を守るサソリ人間が、ギルガメシュを咎めました。
 ギルガメシュは、いきさつを話し、通してくれるように頼みました。
 普通の人間なら通すことなどできないのですが、神が三分の二、人間が三分の一のギルガメシュならいいだろうと、サソリ人間は、門を開けました。「行け、ギルガメシュよ。元気で戻ってくることだ」
 サソリ人間に見送られて、ギルガメシュは地下道を行き、やがて外に出ました。そこには太陽が輝き、ブドウやほかの果実が実っていました。
 少し行くと、ブドウ酒店があり、女将のシドゥリが迎えてくれました。
 ギルガメシュは、シドゥリに、これまでのいきさつを話し、そして、言いました。
 「女将よ、私は、あの恐ろしい死を見たくないのだ」
 シドゥリは、ゆったりと言いました。
 「ギルガメシュよ、あなたの求める命は見つからないでしょう。なぜなら、神は不死を神の手元にとどめて、人間には死を割り当てたからです。精一杯、生を楽しみなさい。それが人間のすることです」
 ギルガメシュは、シドゥリに礼を言うと、やはり、ウトナピシュティムを訪ねて旅立ちました。
 ギルガメシュは、ようやく死の海にたどり着きました。そこにはウトナピシュティムのもとに行くための渡し船がありました。
 船頭に頼み込んで船に乗せてもらい、危険な海を渡って、ようやくウトナピシュティムのもと着きました。
 ウトナピシュティムを前にしたギルガメシュは、これまでのいきさつを説明し、訊ねました。あなたはどのようにして、永遠の命を得たのですか。
 ウトナピシュティムは、そのいきさつを語ってくれました。それは、実に不思議な物語でした。
 聞き終わったギルガメシュは、私も永遠の命が欲しいのですと訴えました。ウトナピシュティムは首をかしげて問いました。
 「私は、六日六晩、一睡もしなかったので永遠の命を得た。あなたは、六日六晩、眠らないでいられるだろうか」
 ギルガメシュは、いられると答えましたが、ほどなく眠ってしまいました。六日六晩眠り続けたギルガメシュは、目覚めたとき、自分は永遠の命を得られないと落胆しました。
 やむなく帰途につくギルガメシュを気の毒に思って、ウトナピシュティムは言いました。
 「ある海の海底に、人間の生命を新しくする草がある。この草を手に入れれば、いつまでも生きることができるだろう」
 喜んだギルガメシュは、苦労を重ねてこの海を見つけ、海底に潜り、ようやく草を一本だけ手に入れることができました。
 ギルガメシュは、都城ウルクに向かいました。途中、清らかな泉をみつけ、衣服を脱いで草をその上に置き、泉に降りて身を清めました。泉から上がってくると、草がありません。見ると、一匹の蛇が、草を加えて草むらに姿を消していきました。
 ギルガメシュは、自分は永遠の命は得られないと悟りました。
 ようやく都城ウルクに戻ったギルガメシュは、王としての務めを果たしながら、そこで生涯を閉じたのでした。(浪)