【随筆】−「ランプシニトス王と泥棒」                浪   宏 友


   世界最古のミステリー小説と言われる、古代エジプトの民話をご紹介します。
 エジプトのランプシニトス王は、莫大な銀を持っていました。王は、この銀を安全に保管するために、宝庫を作ることにしました。宝庫は、石積みで作ることになり、大勢の石工が、工事にあたりました。
 石工の一人が、地面に近い壁になる石の一つに細工をして、外から取り外せるようにしました。それっきり、この石工は何もしませんでしたが、臨終間際に、二人の息子を呼んで、宝庫の石のことを教えました。
 石工が死んでから間もなく、息子二人は、教えられた石を動かして宝庫に忍び入り、銀の入った壺を盗み出しました。
 宝庫から壺が無くなっていることを知った王は、調べさせましたが、何もわかりませんでした。
 再び銀の壺が盗まれた時、王は、次の盗難に備えて、宝庫に罠を仕掛けました。そうとは知らず、兄弟は、またまた宝庫に忍び込み、一人が罠に掛かってしまいました。
 罠は頑丈に作ってあって、どうしても抜け出すことができません。夜明けが近づいてきます。そのとき、罠にかかった兄が言いました。私の首を切り取って持ち帰れ。顔が分からなければ、誰がやったか分からない。弟は嫌がりましたが、ほかに方法がありません。兄さんごめんと言いながら、兄の首を切り落とし、持ち帰りました。
 翌朝、宝庫の番人が、罠にかかった首無し死体を見つけました。王は、この死体を高くつるし、四六時中見張らせ、この死体を見て悲しむ者がいたら連れて来いと命じました。
 これを見た兄弟の母親は悔しがり、弟に、この死体を取り返して来いと言いつけました。弟が渋ると、取り返してこなければ、王さまになにもかもしゃべってしまうと脅します。
 弟は考えて、数頭のロバに、お酒の入った皮袋を背負わせました。
 夜中、ロバを引いて見張っている番人たちのそばに通りかかり、皮袋の紐をゆるめますと、お酒がこぼれ落ちました。弟が、うわっ、困った、大変だと慌てふためいて見せますと、番人たちは、袋からこぼれているお酒を見て、入れ物を持ってお酒を受け止め、飲み始めました。弟は、そんな番人たちと打ち解け、どんどんお酒を振舞いました。やがて、酔っぱらった番人たちは、寝てしまいました。この隙に、弟は、兄の死体を降ろして、母親のもとに持ち帰りました。
 死体を奪われたという報告に、腹を立てた王は、どうしてくれようと策を練りました。
 王は、自分の王女を、娼家に送り込みました。そして、客となりたい男に、今までしてきたことのなかで、もっともひどかったことと、もっとも巧みだったことを話しなさい、話が面白かったら、お客にしてあげると言いなさい。今回のことを話す男がいたら、腕を掴んで離すんじゃないぞと言いつけました。
 この話を聞いた弟は、これは自分を探しているんだなと気づき、死んだ人から切り離した腕を持って娼家に行きました。
 女に問われて、弟は、もっともひどかったことは、罠にかかった兄の首を切り落としたことであり、もっとも巧みだったことは、番人たちに酒を飲ませて死体を取り返したことだと話しました。王女は、男の腕を掴み、控えていた兵士を呼びましたが、男は逃げて行ってしまいました。見ると、王女は、肩から切り離された誰かの腕を掴んでいたのです。
 王は、この男の頭の良さに感心しました。もしかしたら、自分の役に立つかもしれないと考えました。
 王は、男に、名乗り出れば罪を許し、褒美を与えると布告を出しました。弟は、布告を信じて名乗り出ました。王は、弟をほめたたえ、王女の婿に迎えたのでした。
ランプシニトス王のモデルは、ラメセス三世ではないかと推測されています。(浪)