「詩の基本」       浪 宏友著
◆◆◆詩を作りたくなったあなたのために◆◆◆

  1.誰でも一度は詩を作りたくなる

 詩って誰でも一度は作ってみたくなるもののようです。でも、続けて作ろうと思う人は割合少ないように思われます。それでいいのだと思います。作って、作って、作るだけ作ったら、それでおしまい。詩ってそんなところもあるんですよね。でも、詩を作っているうちに少し続けてみようかなと思ったあなたのために、これからお話をしてみたいと思います。これを縁に、素敵な詩を作っていただけたら、この上なく幸福です。

  2.詩にも基本はある

ものごとにはなんでも「基本」があるそうですが、詩にも基本があると私は思っています。あなたも、やはり基本から入ったほうがいいと思います。ところが、基本っていうと簡単そうですが、実はその道の極意に通ずるものなんだそうですね。だとすれば、達人でなければ分からないわけで、そういう意味では私には「詩の基本」を語る資格がありません。そこで基本の代わりに私の経験から割り出した「試作のセオリー」の中から、あなたにお役に立ちそうな所をさがしてみたいと思います。

  3.あなたの作り方で

詩の作り方は自由です。あなたの作り方でいいのです。長い詩もいいでしょう。短いのもいいのです。作って、作って、作りまくってもいいでしょう。じっくりと、ひとつの詩に取り組んでみるのもいいものです。さらさらっとやってもいいし、ウーン、ウーンと唸ってる姿もなかなかです。それぞれの人のそれぞれの作り方。詩はその人その人によって、いろんな作り方が生まれてくるようですよ。

  4.詩の恰好

俳句は五七五の十七文字。短歌は五七五七七の三十一文字。詩は字数制限なし。でも、だいたいの恰好はありますね。あなたが知っている詩の恰好をとりあえず真似してください。あなたが気に入っているのがあったらなお好都合です。いろんなふうに詩を作ってみてください。作っているうちに、あなたに合ったものが自然に見つかってくると思います。

  5.胸さわぎがしたら詩を作ろう

何かの出来事に出会ったとき、「詩を作りたい」と思うことがあります。失恋したなんてときには、むしょうに詩を作りたくなったりします。旅さしですばらしい景色に出会ったときに、なにか書いておきたくなったりします。そんなとき、どうか、ペンを執ってください。そして、どんどん詩を作ってください。詩は胸さわぎや驚きから始まることが多いみたいなんです。

  6.突然詩を作りたくなったら

何のきっかけもないけれど、突然詩を作りたくなった、なんてことがあるかもしれません。そう、そういうことも多いのです。そんなときにはできるだけ間を置かずにペンを執ってください。詩って、ぐずぐずしていると、すぐどこかへ行っちゃいます。あとで作ろうと思って、さぁこれからと思ったときは、詩はいっこうに姿を現さないなんて経験を私は山ほどしています。作りたい、書きたい、と思った時が潮時です。そういう時は詩のほうでも作ってもらいたくてうずうずしているのかもしれません。

  7.改めて詩を作ろうと思ったら

 今日は時間ができたから、詩でも作ってみようかな。そんなときもありますね。そんなときは、まず、机に向かってください。静かに姿勢を整えてから、目を閉じて、心をひとつにとりまとめてください。さて、ペンを執って、おもむろに書き始めます。なにを?うん。そのときあなたの心に浮かんだイメージでもいいし、言葉でも結構。それをきっかけに、だんだんペンを進めていきます。それできっと詩がひとつ生まれてくるでしょう。

  8.心に映ったままを

 詩を作るときは、ありのままを書いていただきたいと思います。詩の場合のありのままとは、「あなたの心に映ったまま」ということです。あなたが素直になっているときは、見るもの聞くことが素直に心に映るでしょう。荒れているときはたいてい荒れて映ります。そのような心に映ったそのままを、言い換えれば、見たまま、感じたまま、思ったままを詩にしちゃっていただきたいのです。丁寧に自分の心を観察して、丁寧に書いてみてください。きっとなにか見出すものがあるでしょう。

  9.見たままを

 詩にしたいと思う出来事があったら、どうかよくよく見てください。あなたの主観で見ていただいて構いません。科学的、客観的に見ていただいても結構です。どちらでもいいから、とにかくよくよく見てください。よくよく見て、見たそのまま、見えたそのままを詩にして欲しいのです。理屈や説明は不要です。見えたそのままが、実に大切な出来事なのです。出来事をありのままに表現するのが、詩の玄関であり、廊下であり、奥の間なのだと私は思っています。

  10.感動のままに

 そのときあなたは、胸中が波立っていたり、気持ちがたかぶっていたりしているかもしれない。あるいは深い思いに耽っているかも知れません。そうした心の状態をここでは「感動」と呼ぶことにさせてください。感動があったら、どんどん作っちゃいましょう。心の動くままに、ペンを走らせてしまうのです。そう、感動もまた立派な出来事なのです。いえいえ、詩人にとっては感動こそもっとも大切な出来事なのだと私は考えているくらいです。

  11.思ったままを

 あなたは、いろんなことを思うことがあるでしょう。そしたら今度はそれを詩にしちゃってください。何だっていいのです。あなたの心の中に浮かんだことであれば。空想だって構いません。思い描いたままを言葉にしてみてください。恋人のことに思い耽ってしまって、いろいろと楽しいことやら、迷いやらが心の中を巡り歩いたら、それを書いてしまうのです。外に姿を現す出来事も、外からは見えない出来事も、同じように大切な出来事であることに変わりはないのです。

  12.詩は自分

 見たまま、感じたまま、思ったままを詩にするとなると、そこに描かれるのは出来事であると同時に、自分自身なのですね。そうなんです。詩って、いつしか自分自身を表現しているものなんです。作っているそのときの自分がありのまま出てしまうものなんです。だからこそ、変な見栄など張らずに、ありのままを、すなおに描写していただきたいと思います。それに、見栄など張ると、それがいつの間にか詩に出てきてしまいますしね。

  13.たとえる

 見たまま、感じたまま、思ったままを直接言葉にしようとしても、なかなか上手く行かないことがあります。適切なことばが浮かんで来ないのです。そういうときによく使われるのが「たとえる」ということです。「AはBのようだ」「AはBのように○○だ」こんなふうに書くのが基本のようです。Bの持つ特徴を使ってAをより具体的に印象付けようというのです。たとえることによって、あなたが言いたいAの内容が現れてくれば成功です。

  14.こんなたとえかたもある

 たとえる方法のひとつですが、「AはBのようだ」の「Aは」を省略してしまう方法があります。「Bのようだ」とか、しまいには「Bだ」と。なんとも乱暴なやり方にみえますね。でも、詩ではこれで通ってしまったりするのです。このとき「A」は、詩の流れから自然に分かるようにしてもいいでしょう。ときには、詩の始めから終わりまで、「A」を隠しっ放しということもあります。まぁ、一度試してみてください。

  15.感じとらせる

 普賢菩薩は偉大な実践力の持ち主だと言われています。仏教では、普賢菩薩を象に乗せることで、この偉大な実践力を表しています。大きな足でのっしのっしと歩く象の姿によって、普賢菩薩の実践力を感じとってもらおうというのです。形のあるなにかによって、形のないものを読者に感じ取ってもらおうというこの手法は詩でもよく使われています。心の中の出来事とか深い思索など、言葉にしにくいものを読者に感じとってもらいたいときは、有効な方法になると思います。

  16.イメージ

 こころの中に描く情景をイメージといいます。イメージは自由な世界ですから、現実世界ではあり得ないことでもさっさと実現してしまうことができます。そこでこれを詩に利用してしまおうと思います。あなたが空を翔んだってかまわない。あなたの夢を全部いっぺんに叶えてしまったって、誰からも文句は言われますまい。詩には、そうしたイメージを遠慮なく取り込んでください。ゆたかなイメージで、詩を躍動させてください。

  17.具体的な表現

 詩の表現は、できるだけ具体的な方がいいようです。簡単に言えば、読んだだけで情景が目に浮かぶような表現がいいのです。詩は理屈や説明ではありませんから、直感的なものあるいは直観的なものですから、読んですぐ伝わるような表現の方がいいのです。具体的な出来事やイメージを、具体的に表現してください。形のないものすら、たとえやらなんやらを使って、できるだけ目に浮かぶ表現にして、伝えたい内容が直接読者のこころに伝わるように工夫してください。

  18.読者

 友人に詩を読んでもらって「どう?」と尋ねると、感想を述べてくれることがあります。ところが、よく聞いていると、あなたが作ったときのつもりとは、大分掛け離れた取り方をしていることに気付きます。そんなときに、友人の理解を修正してあげてもいいのですが、ほうっといても、詩の場合はいいようです。詩を読んでもらうのは、友人の心の中に、何かしら好ましい感情がわき出して欲しいからなんですから、友人が読みながら好ましい表情をしてくれたら、それでいいとも言えるからです。

  19.詩は言葉で作る

 音楽は音。絵は色や線など。彫刻は粘土や木や金属や。ダンスは身体。そして詩は言葉。そう、詩は言葉を使って作るのです。言葉を使って作るものは他にもいろいろあります。それらと詩とはどう違うのかなどという詮議は、ここではやりません。ともあれ、詩は言葉で作るのですから、言葉が大切なのです。言葉を使いこなさなければならないのです。これだけは間違いありますまい。

  20.日頃使っている言葉で

 詩を作る上で特別な言葉というものがあるのかないのか、私にはよく分かりません。私たちの作る詩は、私たちがもっとも使いこなしている言葉で作りたいと思うばかりです。日常語といいましょうか、生活の中でどんどん使っている言葉は、私たちの中で充分こなれているはずです。そういうこなれた言葉を使ってこそ、言いたいことが適切に言えるのではないでしょうか。詩人たるもの、日常語の他にも充分こなれて使える言葉を増やすべきだとは思っていますが……。

  21.言葉のリズム

 聞くところによれば、元来、詩は吟じ、詠じたものなんだそうです。声を出して読んだり、他人に聞かせたりしたんだそうです。そういえば、ちかごろ、そのような催しがあちこちで試みられているようです。私たちの作品も、声を出して読むと気持ちがよくなるものにしたいですね。そのためには、言葉のリズムに留意する必要があるでしょう。五七調、七五調という代表的なリズムがありますが、それにこだわる必要はありません。声を出して読むと快くなるようなリズムを、言葉の内から捜し出してみてください。

  22.発表する

 詩が上達したかったら、是非発表しましょう。「だってぇ、恥ずかしいもん」なんて言わないで、とにかく発表してみてください。不思議なことに、発表すると必ずといっていいほど上達するのです。読者からの反響は殆ど返ってこないのですが、それでも、発表していると、だんだんに進歩してくるのが普通なのです。いい作品が作れるようになってから発表しようというのは、上手くなってから練習しようというのと同じなのかもしれません。

  23.発表と上達

 発表すると何故上達するのでしょう。少し考えてみましょう。何はともあれ、発表するとなると、緊張感が増します。これで私たちの姿勢がピンとなりますね。読んでもらう以上、やはりいい作品にしておきたい。そんな気持ちが作っているときの集中力を高めるかもしれませんね。それにできることなら、「うん、いい詩だ」と言われたいから、一生懸命に推敲もするでしょうし……。そんなこんなで、結局、詩が上達することになるのでしょうか。

  24.発表する場

 ところが発表しようにも、するチャンスがありませんと言われそうですね。まったくです。同感です。同人に参加するとか、詩誌や雑誌に投稿するとか、自分たちでそれらしきものを出すとか、可能な手立てを見つけるしかありません。詩集を出すのは、相当発表してからにしたほうがいいでしょう。友人の結婚式に詩をプレゼントするなども、ひとつの発表になります。もし、よろしければ、私が編集している季刊詩誌「詩人散歩」に投稿してください。無料ですし、掲載の機会も比較的多くなります。

  25.どの作品を発表しようかな?

 さて、いざ発表しようとなると、どの作品にしたらいいのか迷ってしまいます。こっちの方がいいかな。あっちの方が出来がいいかな。これなら掲載してくれるかな。詩誌や同人誌なら、あなた自身で考えてみて、一応の出来と思ったものを投稿した方がいいでしょう。結婚式なら、その場の目的にもっとも叶った内容のものを発表すればいいと思います。

  26.他人の作品を読もう

 詩を読みましょう。他の詩人の作品を読むことも大切だと思います。自分の詩に閉じ篭もって、ひとりよがりになってしまってはいけないと思います。しかし、世間には詩がいっぱい発表されています。それらのすべてを読むことは不可能です。また、発表されている作品がすべていいものばかりとは限りません。大変なしろものも含まれています。ですから、どれを読もうかと選ぶのが一苦労です。こうなったら、なにかの縁があった作品から読むことになるのでしょうか。

  27.どの作品を読もうかな

 取り敢えず私は世間で評判のいい作品を読んでみることにしました。名作を一冊にまとめた詩集などが読みやすくていいようです。なかには難しい作品もありますが、分からないまでも取り組んでみるのも勉強になります。世間的に評価の高い作品は、それなりにいい内容を持っているなぁと思います。詩誌などに掲載されている作品も読みますが、中には読みたくなくなるものもあります。どうしても肌が合わない作品は、無理をして読まなくてもいいと、私は思っています。

  28.読むのも勉強

 他人の作品を読むと、どんな作品なら読んでもらえて、どんな作品だとそっぽを向かれるのかが、だんだん分かってきます。すると、自分の作品はどうかなと考えたりします。自分はいいと思っていても、読者がどう受け取ってくださるのか、考えないではいられなくなります。大勢に読んで欲しいから、自分が読みやすかった作品や、感銘した作品を手本にして作ってみたりします。他人の作品を読むのも、大切な勉強であると思います。

  29.友人たちとの語り合い

 詩の同好者が近くにいれば、詩について語り合うなどいいのではないでしょうか。私の周囲には、詩の同好者はあまりいませんが、音楽家や、日本舞踊をよくする女性、それに絵画の勉強をした人など、芸術に強い友人が大勢いるので、そうした話をよく交わしています。友人という気安さもあって、なかなか手厳しい言葉が飛んできますので大変ですけれども、大いに切磋琢磨されます。あなたにも、そうしたチャンスがあればいいですねぇ。

  30.先輩たちの本を読む

 友人ばかりでなく、詩の先輩たちに話を聞くのもなかなか大切だと思います。と言っても、直接会ってお話を聞くチャンスはなかなかつくれません。そこで私の場合は、先輩たちが書いたものを捜してそうした話を読み、また考えました。詩論、芸術論などのまとまったものにも、ときおりは挑戦してみました。難しかったです。でも、こうした努力はあとからじんわり効いてきたように思います。

  31.作る、読む、語り合う

 詩を作る(そして発表する)詩を読む(他の詩人の作品を読む)詩について語り合う(詩論などを読んだりすることも含めて)を、私は重要視しています。詩が上達したかったら、この三つをたゆみなく実践していただきたいと思います。とりわけ、詩を作り続けることが、詩の上達のためには、当然ながらもっとも大切だと思います。

  32.詩的事実

 私は、詩というものは「事実」を表現するものだと思っています。事実と言っても、それはいわゆる「科学的な事実」ではありません。また「社会的事実」とも違います。しかし、やっぱり事実なのです。「見たまま」、「感じたまま」、「思ったまま」というのは、詩を作ろうとするあなた自身の重大な事実なのです。あなたの、あなただけの、かけがえのない事実なのです。しかも、詩にでもしなければとても表現できないような事実なのです。この事実をあるいは「詩的事実」と名付けてもいいのかもしれません。

  33.詩的情操

 詩人でなければ見出せないような事実、詩でなければとても表現できないような事実。それを私たちは詩的事実と名付けました。そうした事実を掴み取るのは、深い芸術的情操だと思います。私たちの場合は詩的な詩的な情操と言ってもいいでしょう。これを今度は「詩操」と名付けたいと思います。詩を作り、読み、詩について語り合うのは、詩作の技術を高めるためでもありますが、より以上に詩操を醸成するためなのです。詩人として成長したいと思ったら、是非、詩操を養って頂きたいと思います。

  34.詩の上達と詩操

 詩操に導かれて、詩が生まれて来るという一面があります。また、詩を作っているうちに詩操が養われてくるのも事実のようです。私はどちらかと言えば、詩操に詩が導かれてくるのを待っているという態度です。勉強の過程では、他の詩人の作品を熟読したり、真似したりしているうちに、感受性が深まってきたことも経験しています。詩操を養えば詩もよくなり、詩が成長すれば、詩操も養われてくるのでしょう。

  35.詩操を養おう

 詩操を養うには、ものごとをすなおに受け止めるのが一番だと、私は思っています。自分勝手に曲げないで、まっすぐに見つめ、まっすぐに受け止めるのです。これは案外難しいし、勇気がいることです。特に自分の醜い姿などを見たときには、どうしてもどっかで曲げてしまいがちです。曲げてしまおうとする自分に打ち勝ちながら、ものごとをすなおに受け止める練習を重ねると、詩操が養われ、深みのある人間に育っていくように思われます。

  36.視野をひろげよう

 詩操を養うには、視野を広げることも必要だと思います。詩に凝り固まってはいけません。凝り固まるとどうも自由が失われて、詩が痩せてしまうようです。詩以外のさまざまな分野の見聞が、詩の内容を太らせてくれるように思います。また、たとえを使ったり、無形の内容を感じ取らせるための表現を工夫したりするときのためにも、知識は広いほうがいいようです。詩が上達したかったら、詩以外のものも大切にしましょう。

  37.詩は自由の広場

 以上で、詩の基本ということにさせていただきます。前にもお話しましたように、これらは私の経験から割り出した「詩作のセオリー」の一部です。これから詩をなさろうとする方々のために、その導入として、何らかのお役に立つのではないかと思ったところを集めてみたものです。詩は、入口をくぐったら、あとは自由の広場です。形も内容も、自分でどんどん工夫してください。さぁ伸び伸びと、思うがままに、あなたの詩を作ってください。