【表紙の話】

◇私が長野に住むようになってから、初めに出会った花が、ハナミズキ　であった。四月から五月にかけて、自宅から道路に出ると、ハナミズ　キの並木が満開になっている。楽しい季節である。
◇ところで、私がハナミズキの花だ思っていたのは、植物学的には花で　はなかった。四枚の花びらのように見えるのは実は総苞片（そうほう　へん）と呼ばれるものであった。真ん中にある小さなつぶつぶのひとつひとつが花だったのである。しかしやはり私には、総包片なるものが花であった。
◇黒い硬そうな蕾から、愛らしい花が咲き、花が散り、葉が茂り、秋に　なると赤い実がつく。
◇毎年眺めていると、木の一本一本に個性があることが分かってくる。　花の色にしても、淡いピンク、濃いピンク、白など微妙にちがってい　る。表紙写真のハナミズキは、白い花である。
◇ハナミズキは、大正の初めごろ、アメリカのワシントンから東京に贈　られたのだという。東京がワシントンに桜の木を贈った返礼なのだそ　うだ。その原木は東京の小石川植物園にあると聞いた。
◇太平洋を越えた友情の木が、百年ほどを経た後に、長野市の片すみで　初夏を彩っている。そうと は知らなかったけれど、人の心というもの　は、知らず知らずのうちに、広く、深く、浸透してい くものなのかも　しれない。（浪）

　　　　【本号投稿者】

中原　道代（長野県長野市中御所）
山本ルイ子（東京都豊島区西池袋）
大戸　恭子（東京都杉並区高円寺北）
山本　恵子（東京都新島村本村）
中野　典子（東京都町田市金井）
山口ハル子（宮崎県宮崎市佐土原町）

　　　　【奥　付】

詩誌『詩人散歩』平成20年夏号（季刊）
平成20年6月1日発行（通算第77号）
編集者・浪　宏友
発行者・菊地良輔
発行所・夕焼けクラブ
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