詩誌「詩人散歩」(平成29年春号)
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 編集後記

    【表紙の話】

 裾花川と犀川の合流点近くに、水神さまが祀られている小さなお宮があります。東を背にして建つお宮の前は小さな公園になっています。公園の南側は堤防になっていてその向こうが犀川です。
 私はよく堤防を散歩します。東京の桜が終わるころ、このあたりの桜が咲き始めます。春の訪れがそれくらいは遅いのです。それでも足もとの草花たちは、春を先取りするように咲き始めます。
 四月の中旬、かなり咲きそろった桜を見ながら堤防を歩いていました。堤防から公園を見下ろしましたら、赤い花が咲いています。なんだろうと降りていきますと、木瓜(ぼけ)の花でした。愛らしく美しい花をしばし見つめていました。そのとき撮影した写真を、今号の表紙にさせていただきました。
 ずっと以前のある日。まだ若かった私が、切ない思いを胸に閉じ込めて歩いていたことがあります。そのとき、どなたかの庭先から道に向かって伸びた枝に、赤い花が咲いていました。声を出して泣きたいような思いに締め付けられていた胸が、この花をみたとき、少しだけほころびました。人通りのない住宅街の通りに立ち尽くして赤い花を見つめながら、私は、心を立て直さなければいけないと思っていました。
 その花が木瓜でした。あのとき何があったのかはすっかり忘れてしまったのに、苦い思いに満ちた私の胸に、小さな慰めをくれた木瓜の花のことは、妙にはっきり覚えています。
 木瓜(ぼけ)という名が、どこから来たのか調べてみました。この木の果実が瓜に似ているのだそうです。「瓜」は「か」「け」とも読みます。木になる瓜ということで「木瓜」を「もけ」とか「ぼっくわ」と呼んだものが「ぼけ」になったという説明がありました。ほかの由来がみあたりませんでしたから、これが定説なのかもしれません。(浪 宏友)

    【本号投稿者】

伊藤 一路(東京都豊島区)
山本ルイ子(東京都豊島区)
中原 道代(長野県長野市)
大場  惑(東京都杉並区) 

    【奥 付】

詩誌「詩人散歩」平成29年春号
平成29年3月1日発行(通算第112号)
編集者 浪 宏友
発行者 菊地良輔
発行所 夕焼けクラブ
 詩人散歩編集部
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