【法華三部経を学ぶ その十一】 上司の姿勢        浪   宏 友


   「三草二木の譬え」

 妙法蓮華経に、三草二木の譬えといわれる譬喩が説かれています。次のような譬えです。
 一つの大地にさまざまな種類の草や木が生い茂っています。その草や木は、大きさも大・中・小があります。すがた形も性質も千差万別です。そこに空いっぱいに広がった雲から雨が降ってきます。雨は地上にくまなく降り注ぎます。あらゆる草や木を、分け隔てなく潤してくれます。こうして同じ雨が一様に降り注ぎますが、草や木はその大きさにより、種類によって受けとりかたがちがいます。成長の仕方がちがい、咲く花がちがい、結ぶ実がちがいます。同じ大地に生え、同じ雨を受けても、草や木はそれぞれにふさわしい成長をとげるのです。
 この譬えは、人間の多様性と平等性を表現していると受けとることができます。

   「千差万別」

 世の中に同じ人は居ないと言われています。生い立ちも、天分も性質もちがいます。
 同じ職場に就職し、同じような教育を受け、同じようにはたらていても、同じようには育ちません。それぞれの個性に応じた成長の仕方をするのです。
 人間は、本質的には平等です。生まれながらに自由です。人間の尊厳において平等です。権利において平等です。そのように言われています。その通りだと思います。
 同時に人間は、表面的には千差万別です。家庭を見ても家族の一人ひとりが違います。兄弟姉妹でも、同じ親から生まれたとは思えないなどと冗談を言われるくらい違うことがあります。
 企業を見ても、さまざまな才能の人びと、さまざまな性質の人びと、さまざまな考えの人びとが、さまざまな願望を持ってはたらいています。
 本質的には平等な人びとが現実には千差万別な人びとであるという事実は、ゆるがせにすることが出来ません。そして、ここに人間社会として多くの可能性が秘めてられているのです。

   「危ない上司」

 上司が部下に対して、自分と同じように考え、同じように判断し、同じように行動してほしいと望むことがあります。自分と同じ人間、もう一人の自分が欲しいと思うことがあります。しかし、それは無理なのです。人間は一人ひとりちがうんだという事実を認めなければ始まらないのです。
 上司は部下を差別することがあります。この部下はいい部下、この部下はだめな部下。そして更に言います。いい部下は出来た人間。悪い部下は駄目人間。一度烙印を押しますと、それが先入観となってしまいます。両者が同じ失敗をしたとしても、いい部下に対しては寛容となり、だめな部下に対してはますます厳しくなったりします。
 いい部下、だめな部下の判断基準は、たいていの場合自分の都合、自分の好み、自分の気分などです。個人的な事情で、良い悪いを決めてしまうのです。
 よく、イエスマンばかりの会社は傾く危険があると言われていますが、上司は部下の選り好みをしているうちに、身の回りにイエスマンを集めてしまう危険があります。

   「本質的な理解」

 普遍的な理のひとつに「関係の法則」があります。関係の法則は、千差万別の人びとが互いに深く関係しながら根底的には調和を目指しているとしているという深い事実を指し示しています。この事実に気付くならば、上司は部下の見かたを変えることができるはずです。
 部下は自分とは違うんだと認めることです。それぞれに天分があるんだと見ることです。ひとりひとり性質があるんだ、ものの受けとりかた、考えかたもそれぞれなんだと理解することです。
 そうすれば、いままで自分の都合を土台にして見ていた部下たちが、違った人間として見えてきます。一人ひとりが貴重な存在であることが分かってきます。
 根底的には平等であるという面と、一人ひとり個性があるんだという面を同時に認識し、理解して、自分もその一人であり、部下の一人ひとりもその一人であると思い至れば、根底から人間性を尊重した態度で部下に接することができるはずです。

   「らしさの発揮」

 一人ひとりちがうのが本当なのですから、経営者としては、そのちがいを活用して、効率を高めたり利益を上げたりしようと考えていいはずです。
 ここで重視されるのはチームワークです。ちがう才能の人びとが、それぞれの才能を生かして、役割を担い、企業目的、経営目標に向かって力を合わせるとき、その力はおそらく足し算ではなく、掛け算で大きくなるはずです。
 自己実現とは、その人らしさが発揮されることだと言われています。生きがい働きがいは自分らしさを発揮して人びとのために役に立ったと自覚できたとき、会社のために役に立ったと自覚できるとき味わうことができると言われています。
 それぞれの人のそれぞれの才能に出番を与えて、チームワークのなかでその人らしさを発揮させることができれば、大きな成果を上げながら、一人ひとりの自己実現も自然に出来ますし、生きがい働きがいも自ずから味わうことになるわけです。
 一人ひとりにちがいがあるということこそ、真に大切にするべき宝なのではないでしょうか。

   「上司の姿勢」

 自分とちがうことを考えたり、発言したりする部下は使いにくい。そう思っている上司がいます。自分という狭い範囲に部下を押し込めておきたいという上司がいます。自分の力以上の仕事をする部下を煩わしく思ったり、疎んじる上司がいます。
 そのような上司のもとには、真に仕事のできる部下は育ちません。部下の力を発揮させたり、活用したりすることができません。
 謙虚な姿勢で、一人ひとりの特質を大切にする上司、部下に教えてもらうことを嫌がらない上司、部下が自分よりも優れた才能を持つことを心から喜ぶ上司。そのような上司のもとで、部下は一生懸命に使命を全うしようと努力します。
 腹が大きいとか、懐が深いとか、そのように言ってもらえる上司になることが、業績を上げるためには重要なことなのです。三草二木は、そんなことを教えてくれていると思いめぐらしました。