【法華三部経を学ぶ その十八】 私の事業         浪   宏 友


   「言い訳」

 有限会社 浪 宏友事務所が開業したのは、二〇〇一年一月一日です。それから四年たちました。この間、この会社の事業は一体何なのだろうと考え続けてきました。作ってから考えるのですから順序が逆ですが、作って動いてみないと分からないことが余りにも多かったのですと、やっぱりこれは、言い訳ですね。

 自己弁護ですが、私が本当にやりたかったことだけは、事業を始めるずっと以前からよたよたと会社を経営している現在に至るまで、微動だにしていないと思います。それは、妙法蓮華経の真意を感じたときから始まり、時と共に、少しずつですが,内容もついてきたように思われます。

   「経営目的」

 庭野日敬師を私は師と仰いでいます。庭野師の著作に『法華三部経 各品のあらましと要点』(佼成出版社)がありますが、そのまえがきに次のような一節があります。

 「今こそ、まさしく末法の時であり、人間が真の人間の生き方に目覚めなければならない時なのです。それでなければ、この世界を救うことはできません。」

 末法の時代とは西暦○年から○年までというような区切りでいうのではありません。人びとの現実の姿、現実の生き方が、真の人間の生き方から外れていることをいうのです。

 人びとが自分の利益、自分の仲間や自分の国の利益に固執し、その利害の衝突でいがみあい、争いあうようなことが次々と起こる時代を末法というのです。現代の様子を見るにつけ、まさしく末法であると実感してしまいます。

 そのような時だからこそ、人びとが真の人間としての生き方に目覚めてほしいと師は願いました。師の願いはそのまま私の願いであり、この願いを少しでも達成するために、事業を始めることにしたのです。私の経営目的は、まさしくそこにあるのです。

   「悩 み」

 世間には数万種類もの仕事があると言われています。そこでは、多くの人びとがさまざまな立場、さまざまな形で仕事に従事しています。

 仕事における悩みはさまざまですが、なかでも重大な悩みがふたつあります。ひとつは、自分自身の悩みです。

 この仕事によって、自分の求めているものは得られるのか。
 この職場は、本当に自分の生きる場所なのか。
 自分はこのままでいいのか。
 自分はもっと大きく羽ばたけるのではないのか。
 そんなふうに、自分の生活・人生に関わる悩みが次々と生まれてきます。

 もうひとつは、人間関係から生じる悩みです。上司、部下、同僚、外部の人びと、顧客などなど、すべて人間です。これらの人びととの関係のあり方が仕事そのものであるといってもいいくらいです。

 そこには、さまざまな葛藤が生じます。妬み、恨み、憎しみなどが渦巻きます。セクシャルハラスメントもそのひとつですし、最近はパワーハラスメントが社会的な問題として取り上げられるようになりました。

 なかでも悩ましいのは、善意の葛藤ではないでしょうか。善意と善意、真面目と真面目がぶつかり合って、争いが生じ、重大な事態に発展するという矛盾に満ちた葛藤です。

 仕事のなかではこのように、自分自身の悩みと、人間関係の悩みが間断なく生じます。このふたつは、数ある悩みのなかでも根本的なものであると思われます。

   「願 い」

 これらの問題を前向きに解決することができれば、仕事をしている一人一人の人生が、豊かで有意義なものとなるでしょう。豊かで有意義な人生を送る人が増えてくれば、世間も明るく住みよいものとなるでしょう。

 こうしたことを考えるにつけ、私はこんな願いを抱くようになりました。
 あらゆる人びとが、真の人間として生き、真の人間として成長していただきたい。
 世間が真の人間で満ちあふれ、未来に向かって生き生きと明るく活動していただきたい。
 そのために、微力ながら精一杯のお手伝いをさせていただきたい。
 そうした願いがあったために、事業を始めたというのが本当のところです。

 私にそれだけの力があるかどうかは分かりません。ただ、庭野日敬師から妙法蓮華経を学んだ私の奥底から、それが私の生きる道なのだという衝動がわき上がってくるのです。

 ずっと以前から現在まで涌きつづけているこの思いは、おそらくこれからも、ふつふつと涌き続けることでありましょう。

   「対象者」

 願いの大きさから言っても、本当は全人類を対象にしたいのですけれど、実際問題としてそれは無理です。私の備えている条件から考えても、はたらきかけることのできる範囲はごくごく限られています。

 友人たちが、経営コンサルタントをやっていたこともあって、いつしか私も経営コンサルタント的な発想で、事業を考えていました。

 仕事についていろいろと学んでみると、リーダーである経営者のありかたが、企業の内外に大きな影響力を持つことが分かってきました。このため、経営者が立派な人格を備えてくださることが、なによりも大切なことではないかと考えるようになりました。

 同時に、経営者以外の方々もいろいろと悩んでいます。こうした方々の悩みを解決したり、立派なビジネスパーソンとして成長してくださることも大切なことであると思います。

 そのような考えから、ビジネスコンサルタントとして社会に貢献しようという気持ちになりました。

   「事業の内容」

 庭野日敬師は、先程の文の続きで次のように述べています。
 「その真の人間の生き方が、法華経に示された菩薩の生き方です。」

 法華経に示された菩薩の生き方は、広く深い内容を持っています。私ごときが一気に入れる境地ではありません。

 ビジネスコンサルタントを営みながら、法華経に示された菩薩の生き方に向かって歩むにはどうすればいいか。
 いろいろと考えたあげく、ひとつの道筋に辿り着きました。それは「智慧を仏に学び、人びとを智慧に導く」ということです。

 経営者やビジネスパーソンに仏の智慧を伝え、智慧の実践を手助けする。そのためには、私自身が仏の智慧を学び続け、実践し続けなければなりません。それが私の事業の内容であると考えました。それは、法華経の教えに照らして見出した私の道でした。

 ビジネスコンサルタントとしての具体的な活動のすべてがこの内容となるように、自らを高め人びとに貢献しよう。それが私の事業なのだと、ようやく自覚するようになったところです。