【法華三部経を学ぶ その二十七】 従業員の使い方        浪   宏 友


  ◇素質が悪い従業員?

 「なんでうちには素質の悪いやつしか来ないんだろう」
 よく耳にする経営者の嘆き節です。よその会社の社員は出来もいいし、よく働く。それにひきかえ自分のところの社員は出来が悪くて、働きも悪い。世の中は不公平だ。ざっとこんな具合です。
 仕事を教えても覚えない。そもそも覚えようとしない。休むことばかり考えている。働きもしないで給料が上がることばかり期待している。そう聞くと、なるほど大変ですねと同情の言葉のひとつも掛けなければなりませんが、本当に同情に値するのか、怪しいものがあります。
 われわれ経営コンサルタントの目からみれば、「自分のところに来た奴の素質が低い」と言っている陰には、社員の素質を引き出すことのできない経営者がいるのが通例だからです。

  ◇神頼みの救い

 宗教では「救い」が大きなテーマになっています。なかでも「苦しみから抜け出すこと」が救いの代名詞になっているように思われます。
 苦しいときの神頼みで、困ったとき、どうにもならないときに神仏に手を合わせ、神さま仏さまなんとかしてくださいと拝むことがあります。
 智慧を傾け力をふりしぼり自分の限界ぎりぎりまで努力した挙げ句のお願いなら素晴らしいことだと思います。
 しかし、多くのお願いは、ずいぶんと身勝手なものです。自分は何もしたくないけれど困ったことだけは片づいて欲しい。とにかく御利益をください。自分だけには、苦しみ悩みが決して来ませんように。こういったお願いはまだまだいい方かもしれません。
 こんなお願いは人間の生命の真実に背いていますから通るはずもありませんが、そうとは気づかない人が多いのかもしれません。

  ◇神頼み的雇用

 従業員を雇用するときも、似たような気持ちを持つ経営者がいるようです。
 人手が足らない、誰かいないかと探しているところに飛び込んできた人を、雇いさえすればなんとか仕事をしてくれるだろう、そんな気持ちで雇用します。教えることも教えないで、手当たり次第に仕事を言いつけます。ところが期待通りには働きません。そこで愚痴がこぼれてくる、そんな経営者に出会うのに苦労はいらないようです。
 その道のベテランを雇い入れて任せておけば、自分は何もしなくても儲けが出るなどと考えることもあるようです。ところが雇い入れたベテランが会社の決まりを守らなかったり、気分で仕事をしたりしたために社内秩序がメチャメチャになり、かえって業績が下がってしまったという事例も少なくありません。

  ◇本質的な救い

 救いにはさまざまあるようですが、もっともレベルが高いと思われるのは、庭野日敬師が『法華経の新しい解釈』の中で語っている救いでしょう。
 「人間なら人間、動物なら動物、植物なら植物、そのものの持っている本来の生命を生き生きと発現させ、すくすくと伸ばしてやる」
 これこそ最高の救いです。
 人間で言えば、その人の持っている本来の生命を生き生きと発現させることが救いであり、すくすくと伸ばすことが救いです。
 この救いを「本質的な救い」と言います。
 本質的な救いを得た人は、自分の正しい生きかたを生きようとします。目の前に苦悩が襲ってきても、正しく対処して自分らしく成長しようとします。こういう姿勢でいると、いつしか苦悩が苦悩でなくなります。
 本質的な救いの道を歩む人こそ、真の意味で人生の成功者と言えるでしょう。

  ◇従業員を本質的に救う

 本質的な救いをベースにして、従業員の雇用を考えてみたいと思います。このときは経営者が救う側の立場に立ちます。
 経営者はまず従業員の本来の生命を生き生きと発現させることに留意します。すなわち現在持っている能力を発揮させるように仕事を選んだり、立場を選んだり、指示・命令の仕方を選んだりするのです。
 持っていない力を出せというのは間違いになります。持っていない力を無理やり出させようとすれば、能率が下がります。さらに無理強いすれば従業員はそっぽを向いたり心身の病気になったりする危険性があります。
 次に経営者は、従業員をすくすくと伸ばしてやろうと心がけます。従業員の伸びる可能性を見出したらそこにはたらきかけ、新しい力を付けたり伸ばしたりするようにしむけるのです。
 可能性がないのに力を付けろ、力を伸ばせというのも間違いです。可能性がないところを無理やり伸ばそうとすると従業員は苦しくなります。このため、出来ることまで出来なくなることがあります。
 伸びる可能性が見当たらなければ、現在持っている力を健全に発揮させることに心を向けたほうがいいのです。力を存分に発揮出来るようになると、必ず向上したいという心が芽生えてきます。それから伸ばして上げても遅くはありません。
 こうしてみると、経営者は従業員を本質的に救うという姿勢で使えばいいことが分かります。
 先ず、現在の力が発揮できるように配慮する。
 次に、可能性を見出したら伸ばしてあげる。
 このような取り組みをする経営者のもとなら、従業員は喜んで働きます。自ずから能率も上がり、定着率も良くなるでしょう。
 こうしたことが、会社の売上や利益の向上に好影響を及ぼさないわけがありません。顧客は会社の状況を敏感に感じ取り、良い会社に流れてくるものだからです。
 従業員を本質的に救えば、会社の業績が上がる。妙法蓮華経はそんなふうに語っているのではないでしょうか。