詩誌「詩人散歩」(平成15年夏号)
◆これまでの【詩編】を掲載しています。

  陽炎                   浪 宏友

あのときも ふたりして
陽炎になってたね
春の野の 明るい日ざしに
悲しみを押し隠して
ふたりして 黙ってたね

今日もまた ふたりして
陽炎になっている
草花のおぼろな野辺に
心のはなびらをまき散らしながら
ふたりして 黙ってる

いつかまた ふたりして
陽炎になるのかな
風吹けば 風のまま
雨降れば 雨のまま
ふたりして いつまでも

  信頼                   浪 宏友

目の前に荒れ地が広がっていようと
太陽が黒雲に引きずり込まれようと
空気が鉛のように重たかろうと
ようやくここまで来たのだから

ぼくたちにははじめての土地だけれど
立ち止まらずに歩いていこうよ
これまでだって
ずーっとはじめてばかりだったのだから

こんなに疲れ果てているのに
きみの瞳が明るいのは
夜の闇が襲いかかってきたのに
握った手のひらがこんなに力強いのは

このまま休まずに歩いていこうよ
もしも夜明けがきたときに
どんなところに立っていようと
あたたかなお互いを感じ続けられさえすれば

  私の藤棚                 中原章予

ウグイスが鳴き
梅の花が散り
今 水仙の花盛り
畑には菜の花
たんぼにれんげ草
タンポポの黄色
桜の花は真っ盛り

我が家の藤は
まだまだ春遠く枯れ枝
それでもあと少しで芽をふくのか
丸くふくらんで
自分の出番を待っているのか

  いのち                  中原道代

福寿草が咲いている
庭のすみにやわらかな朝の光をあびて
福寿草が咲いている
その傍らを小さな虫が這っていた
黄色の花が小さな世界を明るくしている
たくさんのいのちが
この広い世界を明るくしている
大きな大きな宇宙のいのちに育まれて
いのちをつなぎ合いながら
今 私達は尊いいのちを生きている
私はいつまでもこの小さな世界をながめていた
早春の風が福寿草をやさしく
通り抜けて行った

  散策                   山本恵子

コロコロリ 今日は天気だね
そうだよ 冷えるけど歩こうか
どこまでゆくの 足の向くまま
こんなことも気分良いね

コロコロリ 木の芽も小さく出た
おそいけど春もすぐだよ
そうだそうだ だってさ自然だもの
自分の力にあらず流れのままに

コロコロリ かなり遠くにきたね
空をみな 星が一つ見えた
月はまだみえないけど美しい
心がやすらぐし 本当に綺麗だ

  散歩                   山本恵子

午後から散歩しよう
浜の森を通り浜辺にでた
カモメの群れでみとれた
羽でも休めているのかい
可愛く見える白い鳥

散歩のコースは海と山
浜をみながら先ず山へ
山道に入ると明日葉だ
夕食のメニュウきまりだね
リュックにつめて帰路につく

波打ち際で貝殻拾い
歩いていたら目の前に
大きな亀が死んでいた
もっと早くにあっていたら
助けることもできたろに

  あなたの隣に              小田嶋紀江

あなたの車のナビゲートシート
私の指定席だったはずなのに
今は知らない彼女が座っている
悲しくて、虚しくて、涙もでない
朝早く起きて
ソフトクリーム食べたさに行った小岩井農場
横に並んで歩いて 肩がコツコツぶつかった
そのここち良さに脳の中がいっぱいになった
羊の頭をなでるあなたの無邪気さに心があったかくなった
いつしか時は流れ 二人の距離は遠くなった
もうあなたに会う事もないだろう。
あなたの部屋でふざけて笑い合った日々
記憶の底に沈んでいる
今ではあなたとの思いでが私の宝物
ありがとう そして さようなら
あなたの車のナビゲートシート

  葉桜の時期に              小田嶋紀江

何故 あなたは逝ってしまったのだろう
この世界では もう限界だったのだろうか
純粋すぎる魂は
あれから十一年もたつのに 私の中ではあなたのお葬式の日
雨に打たれつづけていたあの冷たさは一生忘れない
涙は止まる事はないんだと初めて知った
あなたの唄声が聞こえてくると胸が押しつぶされそう
悲しくて悲しくて今生きている事すら罪のよう
あなたのその存在をもっと感じていたかった
三十七歳のあなたと共に歩きたかった
渋谷で偶然逢えた時は本当に嬉しかった
一生の思い出をありがとう
あなたの短かすぎた人生
でも充分 生き抜いたのだと思う いやそう思いたい
あなたの遺してくれた歌や詩が今の私をいやしてくれる
あなたを一生想いつづける事をここに誓います 桜の舞い散るこの時に