雪中の鬼女 浪 宏友 |
深い雪の中 骨と皮ばかりの女が振り返る 尖った顎 こけた頬 耳まで避けた口 鋭く見開き 睨み付ける目
胸に掻き抱く蒼白いかたまり
あれは女の笑いだったのか
女の足は埋もれた雪を掻き分けながら
我が子を守ろうとする女の姿だ
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氷雨の闇 浪 宏友 |
何も出ぬ乳首を赤子にふくませて 女は泣くことにも疲れ果てていた 薄暗い都会の片隅 火の気のない古びたアパート 窓の外には氷雨の固い音がする
一年前はこの部屋で
過ぎ去った日々が雨垂れのように
叫ぼうにも声なく
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ガラス戸の向こう 中原道代 |
ガラス戸の向こうに澄みきった青い空 居間の奥までふりそそぐ日差し
外にとび出した
冷たい! やっぱりまだ寒い
春のかけらはまだどこにも見つからない
ガラス戸が急に曇りだした
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あの日 山本恵子 |
雪が舞私の目を捕らえ 窓からみえる教会へ 白いドレスの女性が入る 結婚式かおめでとう
あんときゃドシャブリあめんなか
いまとなれば忘れられない日となり
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旅 山本恵子 |
長野駅も変わったね 何度来ても旅はいい 結婚式病人の看護 人生いろいろあって勉強だ
一人では生きられない世界
ささやかな私の恩返し
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Snow 小田嶋紀江 |
ふわっと生クリームのような雪が屋根の上 に積もっている。手のひらですくってみる。 すぐに溶けてしまう。まるで魔法のように。 夕刻、冷蔵庫と化した外を歩いてみる。 吹きつける雪が顔にあたる。何だか今日はそ れさえも気持ちがいい。存外その渦の中にい ることは不思議と暖かいものだったりする。 白い息を吐きながら、一歩一歩雪を踏みし める。雪明かりに導かれながら・・・・。 誰もまだ踏んでいない雪の上を歩くのは子 供の頃に戻ったようで面白い。何だかこの街 の征服者になったよう。王様気分で歩いてい く。頬にあたる雪の欠片たち。次々と消えて は降り続く。そして足元には確実に積もって いく。不思議な雪。この街で生まれ、この街 で育ってきたのに、この季節はいつも新鮮な 気持ちになる。心が引き締まる感じ。潔い雪 の降るこの町がまた好きになっていく。
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感謝 小田嶋紀江 |
生きていく上で、たくさんの人に支えられ ている。目に見えない暖かい心をもらってい る。それさえ気づかずに暴走した若い頃が恥 ずかしい。一人一人に感謝の気持ちを伝えた い。あの人も、この人もと数え上げたらきり がないくらい・・・・。 私という人間が生まれるために何代もさか のぼると何百人もの祖先がいることに驚異を 覚える。苦しいときには何も目に入らずただ ひたすら自分の殻に閉じこもっていた。でも 、そんなときでも、たくさんの人たちは暖か く見守っていてくれたのだ。「ありがとう」 亡くなった人たち、そして今も支え続けて くれる人々。これからも色々な困難が待ち受 けているかもしれないが、それぞれの暖かい 心を思い出し、大切にしていきたい。生かさ れていることにありがとう。そして、生きて いてくれてありがとう。
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