詩誌「詩人散歩」(平成17年夏号)
◆これまでの【詩編】を掲載しています。

  立ち去る人                浪 宏友

これからどこまで行くつもりですか
ぼくがついて行ってもいいのでしょうか
それともひとりで行ってしまうのですか

止めることはできません
でも やっぱり 止めたいのです

あなたがいないこの土地は
ぼくには廃墟でしかありません
山々は色を失い
せせらぎは枯れはて
雲は流れるのをやめてしまう

それでも行ってしまいますか
ぼくをこの土地の鎖に繋いだまま
振り向きもせずに立ち去ってしまいますか

残るのはぼくのなきがら
味のない食事
足音のない歩み
虚ろに風をみつめる目

ついていってはいけませんか
声もたてず まばたきもせず
あなたのうしろすがたが見えなくなるまで
みおくることしか許されないのでしょうか

  石拾い                  中原道代

玉砂利の中から小石を拾う
手ざわりを楽しみながら拾っていく
みんな違う色 違う形
可愛いバケツがいっぱいになる
きれいに洗って布で拭き
碁盤仕切りの空き箱に
ひとつひとつ置いていく
四歳の女の子は 今 いい顔をしている
道端のなにげない石たちが
箱の中で宝物になって並んでいる
やがてあなたがそれを忘れ去ろうとも
体の奥深く慈しみの心が芽生えている
今 この輝く瞳を守るのは私たち
この小さな心を磨くのは私たち

  季節のつぶやき              佐藤恭子

酒飲んで
酒に呑まれて
酒呑んで
遠い昔の
夢にまどろむ

もういいと
開けてしまった
貯金箱
テープで貼って
再利用する

われものを
こわさぬ様に
口づけた
桜舞い散る
その下のこと

冬の空
爪あとみたいな
三ヶ月を
あなたの背にも
残してみたい

  さくら                  山本恵子

二人でブランコ振りながら
さくら眺めて鳥の声
風に吹かれて散るさくら
緑の木々も美しく
幼い頃を思い出す友の顔
さくら可愛いや楽しいね

  楽しい一日                 山本恵子

浅草はまつりか何かあるのかな
多くの人出に驚いて
楽しい一日時流れ

十年の長さの思い出を
食事しながら語り合う
いついつまでも胸の中

今日という日は良かったね
盆と正月きたみたい
いつか又逢うその日まで
笑顔絶やさず人情も

  機上にて                  山本恵子

飛行機で海みおろして白い波
しぼりのようなうろこ雲
船酔いないが 耳いたい

次々変る目の前に
大島 利島 新島と
飴玉なめて目的地
早く着きたいそればかり

  髪飾り                   山本恵子

桜の花びら風に舞い
三人並んでみとれて歩く
隅田川客船の人と手を振り合う
春の日差胸一杯
久し振りに逢えた人
尽きぬ語らいいつまでも

桜の花が髪飾り
ふと気が付いた鏡前
白い道心もうかれ愛こめて

  あーちゃんへ                河野裕子

あーちゃん
わたしは あーちゃんの手が大好きです
どんな小さなものをも大事そうに
ほほ寄せていつくしみそして合掌する
そのあたたかい手が 大好きです

あーちゃんの心は
悲しみや不安心配でいっぱいですが
時おりみせてくれる
あの とびきりの笑顔の
何と輝いていることでしょう

ひたむきに
小さな胸に涙や悲しみをいっぱいつめながら
ただひたむきに歩んできたあなたの人生
の美しいあかしが
その笑顔の輝きでしょう

あーちゃん
もう心配しないで
みんな大丈夫です
つよく雄々しく生きてゆきます

あなたの心を思う優しい心は
あなたの愛してやまない三人のまごたち
ちゃんとちゃんとつながっていきますから

そばで ほら
あーちゃんのそばで笑っている
やさしいだんなさまと
いいむすこたち二人
やさしいあーちゃん思いのえっちゃんも
みーんな みんな
笑っているよ はずかしそうに
うれしさいっぱいに

その仲間に私もいれさせてくださいね

  再会                    山本尚男

桜吹雪を浴びながら
何から話すか公園のベンチ
十年前がまるで昨日のように浮かぶ 浮かぶ
苦しかったあの時が今は楽しい想い出か
時のたつのを忘れがちこの宝物は
大事にいつまでもしまっておいて
時々小出しにしてかみしめたいと思う
空は晴れて恵まれ過ぎた今日に感謝