詩誌「詩人散歩」(平成17年秋号)
◆これまでの【詩編】を掲載しています。

  電車                   浪 宏友

電車は猛スピードで走っています
けれども ぼくの心の速さにくらべれば
かたつむりよりもまだ遅い
あなたの白い胸元に
ぼくの思いはとっくに届いている筈なのに
ぼくの身体は まだ 揺れる車中にある

窓の外は真っ暗です
電車の音ばかりが激しく響きわたっています
明るいのは遠いあなただけ
真珠色のきらめきのなかに
あなたの香りがたちこめている
ぼくはほんの少しずつ
あなたのもとに近づいています

電車はいつまでも走っています
ほんとうに駅に着くのでしょうか
ちょっと不安になってきました
もしかしたら駅のない鉄道
もしかしたら線路さえなかったのかもしれません
いいえ そんな筈はありません
あなたがそこにいるかぎり
見えない声に急かされながら
電車はまっしぐらに走っているのです

  ひとすじの光               中原道代

今 彼女は大きなカバンをおろして
ただいまと言った
迷いのないまっすぐな目をしている
心やすらぐ場所を求め
自分らしく生きたいと願い続けてきた
長いトンネルを旅して
今ようやくひとすじの光をみつけた
ひとりでは生きられない
いつも大きな力に守られている
このゆるぎない思いが彼女をささえていた
みんなのエールが勇気になって
今なら頑張れる
お役に立たせてください
心澄ませ仏さまに手を合わせる
その横顔に明るい光がさしこんだ

  新たな一歩                中原道代

おかえり
家族の笑顔がむかえてくれた
堅く締めた心の紐を少しゆるめた
こらえていた思いがあふれ出る
温かな日だまりが私をやさしくつつんだ
重い荷物が軽くなっていく
長いトンネルを抜けて
今 私は 仏さまの大きな大きな掌に立っている
あらたな一歩を踏み出そう
目をそらさずに進もう
いつかきっとこの笑顔で
まわりを明るく照らせるように

  心配の日々                志賀由佳

     昔の主人

久々に主人酒をのみ 昔と変わらずうるさくなり 昔のことが思い出され 今までだったらついてゆけないと思い よくも今日までついてこれた おしえのおかげさまで幸せになれた 自分にバンザイ

      息子

大人もいいとこ四十歳の長男をやっと出すことが出来 ほっとするのは一瞬 どうして生活しているやらと 親は本当に無駄な苦労が多い

      住居

古い家 暗い家 せまい家 やっと今松竹梅桜の庭にかこまれて 何ともすばらしい家に生活出来夢のようで ところが又突然この家を売りますので えー また引っ越し 九月迄に どうかご先祖さま 仏様の安心していただける家をお手配くださいませ 祈るばかりです