残り香 浪 宏友 |
枯れ野に咲いていた名もなき花が 胸の奥の一輪挿しに 今も 香りを漂わせている
うたかたの日々
うごめく影に巻き込まれながら
訪れぬ日々
すべてが忘れ去られたとき
もう見ることのない花の残り香が
|
秋 中原道代 |
真っ青な空に 真っ赤なもみじが美しい 赤い柿も似合っている ケイトウ サルビア ワレモコウ 暖かな色が街中に満ち溢れている 冷たくなった風 澄んだ空気 秋の中に私が溶け込んでいく ゆっくり廻る季節の中で 今日もまた一日のいとなみが始まる 淡々とただひたすらに家事をする 足ばやに帰って来る人を待っている 玄関を開けたあなたの顔がほっとしている 重なり合った真心が波紋となって 世間に響き渡っていく 夜 にわかに降り出した雨が 柿を濡らし もみじを濡らし 秋がどんどん深まっていく
|
若き日の友と合い想う 中原章予 |
一
二年ぶりの友
二
友と別れて子供・孫に逢い
|
弟の見舞 山本恵子 |
一
弟よ暑くなって身体の具合どうかしら
それでも精一杯手を握り力を込めて離さない
帰りしな又もや強く手を握り帰らないでと首を振る
二
帰島 早く電話したら 程なく退院したという
「退院できてよかったね がんばらないとだめだよ」
病人も看病人も同じ苦労と聞かされる
|
季節のつぶやき 佐藤恭子 |
四つ足の テーブルならば 足ひとつ 欠けてもだめね だからあなたも
若い頃
昨日とは
あわれかな
|