詩誌「詩人散歩」(平成18年夏号)
◆これまでの【詩編】を掲載しています。

  来月                   浪 宏友

今月は 幾日まであるの
だって
来月になったら いなくなっちゃうんでしょ
そんなこと 急に言われたから
もう 何にも手につかないじゃない
今月は 幾日まであるの
あと幾日で 来月になるの

ねえ
暦を変えようよ
決して来月が来ない月が
ひとつぐらい あったっていいじゃない
だって そうでしょ
そうすればずっといられるんでしょ
だから ねえ
今 すぐ 暦を変えようよ

そんなに優しい目で見てくれるんなら
ずっといたって いいじゃない
月が変わったって
あんたが変わることないじゃない
ううん 月は変らない
晦日がずっと続くんだ
だから ずっとここにいるんだよ
どこにも行ったりしないんだよ
急にいなくなるなんて
言ってもらいたくないもん

  こうちゃん                中原道代

開けはなたれた窓
レースのカーテンがかすかに揺れている
フリージアがやさしく香った
東京へ行ったこうちゃんはどうしているだろう
五歳の元気な男の子は
お星さまになったママを覚えていない
おばあちゃんが大切に大切に育ててきた
雨の日も 雪の日も
ありったけの愛をそそいだ五年間

こうちゃんに新しいママができた
安堵の思い 淋しい思いが
おばあちゃんの中で交錯した

引っ越しの朝
おばあちゃんは精一杯の笑顔でこうちゃんに手を振った
遠のいて行く車が涙でぼやけていった

今 幸せを願う日々が安らぎになっている

  季節のつぶやき              大戸恭子

気の早い
冷し中華に
かきごおり
風はようやく
南から吹き

さかな屋に
あゆが並べば
あゆを買い
外は夕立ち
内は夕食

辛いとき
神も仏も
あるものか
でも辛いから
手をあわせてる

泣きながら
ギターを弾いて
歌うのは
聞くも悲しい
ラブソングかな

  西風                   山本恵子

島の名物西風 吹きまくり
波のしぶきが ところかまわずあれくるう
船が無事祈りて
お客さん気分如何と 我身ごと

くる日くる日 我家の庭
すぶきが舞い落ち 雨のごとく
あわれな植木 花枯れて
手入れせずに 心痛みて

毎日通う運動に 車洗う
主人の手赤くはれて 痛さ感じる
早朝の時間 きにして 光る車
ごくろうさんです さあいこうか

  ラリア                  山本恵子

大皿にポッカリ浮かぶ
大輪ラリヤきれいに咲いて
うっとりながめる食事どき
メニュの中に ラリヤ一品

あまりの大きさ首から切れて
すてるのいやで もちかえり
何日生かして楽しむか
食堂テーブルかわいいね

今年は寒いのに蚊が多く
蚊をつりて夜をあかす
時にはさされて朝になり
美人もくずれラリヤまけ