詩誌「詩人散歩」(平成18年秋号)
◆これまでの【詩編】を掲載しています。

  日射し                  浪 宏友

暑い日射しに照りつけられて
流れ落ちる汗に全身を濡らしながら
ぼくは
忘れられた電柱のように立っている
誰にも気づかれず
音も途絶えて

暑い夏の日射しは暮れることを止めて
容赦なく日射しを叩きつけてくる
あの日
ぼくに芽生えた淡い夢が
ほんの少しだけ香りを残して
跡形もなく干からびてしまった
立ち尽くすぼくは夏の空っぽ

暑い夏に小突かれて
操り人形のように動きはじめる
どこへ
わかるはずもない無意識の底に
かすかな陽炎が揺らぎ続ける

  一枚の写真                中原道代

終戦直後の長崎
息のない弟を背負って
裸足の少年は直立不動で立っていた
悲しい目は前を見すえ火葬の順番を待っている
ここに私は六十年前の兄を見た
一歳の兄は今異国の地に眠っている
人々の慟哭がうねりになって
私の胸に押し寄せて来た
この悲しみをしっかり受け止めよう
心の深いところに問いながら
きのうよりも今日 今日よりもあしたへと
静かな歩みを続けるほかはない

  季節のつぶやき              大戸恭子

鳥かごの
つがいの鳥の
可愛さよ
めおとになりて
仲むつまじく

座布団に
正座する足
しびれても
もう少しだけ
お客さんです

気になるは
体重計の
針の位置
馬肥ゆる秋
食欲の秋

すき間風
気になりはじめ
手をこすり
そろそろ出そう
ガスストーブを

  夜半                   山本恵子

詩人散歩 手に取りて
何度 読み返しても
皆さん素晴らしい 心打たれる
ちょっぴり 私も仲間入り

詩を書く鉛筆大好きで
小さくなってもけずるくせ
同じ事をくりかえす私の手
時間たつのも忘れがち

今夜半 台風の中心に入る
でも自然だから畑には法雨となるか
嬉しくもあり心配もあるこの雨で
夏野菜 うるおうよね

  私のフジだな               中原章予

真冬に真っ白の梅の花
そして紅梅も終り
私のフジだなに
真っ白のフジの花
十センチ
二十センチ
白く美しく開花
そしてちってしまう
淋しいフジ枝に青々と
青々と新芽が出た
もう何年になるだろう
私のフジだなに
毎年春になると二羽のハト
せっせと巣作りをし
二羽のハト仲良く
卵をあたためているのか
子バトの誕生そして巣立ち
今私のフジだなの巣空っぽ
毎日家の電線でポーポーと
その鳴声きいて心なごみ
お早ようハトさん
私に幸せを毎朝ありがとう