詩誌「詩人散歩」(平成18年冬号)
◆これまでの【詩編】を掲載しています。

  残り香                  浪 宏友

せわしなく生きてきたけれど
あのとき枯れ野に咲いていた名も無き花が
胸の奥の一輪挿しに今も香りをただよわせている

うたかたの日々

叫んでいたのは 誰
息絶え絶えによろめいていたのは 誰
泥だらけの手の甲で
まぶたをぬぐっていたのは 誰

今は静まり返っている空気の底に
名も無い花の香りが
あたたかな微笑みを湛えている

再びは訪れぬ日々

聞こえない会話
動かない影
眠ってしまった風景

時が止まり
すべてが止まる

もう見ることのできない花の残り香が
ひそやかに染みわたりはじめている

  足音                   中原道代

夕暮れの河川敷を二人で歩く
ひんやりした風が心地いい
太陽が雲を染めて沈んでいく
河原に紅葉が始まっていた
四方に山々が連なり
足元を犀川が悠々と流れている
グランドに響く若者の声
マレットゴルフの槌の音と歓声
活動的な営みが広がっていた
石ころの道を通り抜け
やわらかな草の道を楽しむ
いつの間にか人の気配は消えていた
山も川も草も灰色のベールにおおわれていく
二人は巨大な墨絵の中を歩いている
重なった足音だけがはっきりと聞こえていた

  晩秋の手紙                中原章予

朝夕はすっきり涼しさと言うよりも
寒ささえ感じられます
其の後もお変わり御座いませんか
永い日雨が降らずに外はカラッカラ
ウンザリして居ましたが 昨夜は恵みの雨
ベッドの中でききながら休みました
明けて畑や花壇の花
エサをあさって居るスズメ迄が
何となく生き返った様でした
私のフジダナは今でもハトが来て
中をうかがって居ります きっとまた
巣ごもりするのでせう
ハトが来ると
何となく楽しく幸せを感じます
おかげ様でウルオイのある人生です
フジダナをながめて今年もおわるのでせうか
寒さに向かう居り柄 呉々も 御身大切に

  季節のつぶやき              大戸恭子

初しもに
足音させて
通う道
寒さ忘れて
はく息白く

後足で
砂はかけても
アスファルト
終ったあとの
習性虚し

冬の日の
短かき事を
ゆず風呂で
あらためて知る
今日この頃か

ミルクティー
それともすっぱい
レモンティー
ゆげの向こうは
雪もちらちら