詩誌「詩人散歩」(平成13年春号)
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  歩 み                 浪 宏友
昨日が過ぎて
今日が過ぎて
あしたもやがて過ぎようとしています

ひそやかな夢が やがて芽生え
雨に打たれ
風に乱され
雪に深く埋もれながらも
わずかずつ背伸びをし
少しずつ大きくなりました

やっと立ち上がった赤ん坊のように
人びとの間を危ない足どりで歩きまわり

言葉を覚え始めた幼児のように
あの人この人に語りかけ

おもちゃを掻き回している子のように
まわりじゅうに迷惑をかけながら
得意がっている私でした

そんな私が そんな私のままで
このままあしたを迎えてしまうのでしょうか

何をしても 笑いかけ抱きとってくれる 母の愛
やさしく 厳しく 導いてくれる 父の愛

わがまま放題振る舞っている私を
あたたかく見守り続けてくれる たくさんの愛

数知れぬ愛に育まれて
あしたの私は
少しは足どりも確かになっているのでしょうか

いつしかめぐりあった人びとと
互いに微笑みを交わしながら
ゆっくり ゆっくり
歩みを運ぶしかない私でした
          (定年退職の日に)

  自死の結末                小田嶋紀江
アイドル歌手の脳ミソが飛び散った。
ピンク色のかたまり。
ドスンとビルから飛び降りた。

 ー即死ー 恋人に捨てられた元アイドルのうでに残った刃物のキズ、ひきつっている。
 ーあざやかな血しぶきー
ヤク中でラリって命をおとしたカリスマ
 ーうつろな目に怨念ー
元恋人のマンションからダイブした女優
 ー即死ー
椅子に座ったまま団地から落ちていったマンガ家
 ー即死ー
人は死ぬ直前、何を想うのだろうか。
死神にとりつかれてしまったのだろうか
そして彼女達の魂は地獄に落ちてしまうのだろうか。
夭折者の死は甘美なものだろうか?

  スクランブル交差点         小田嶋紀江
 渋谷のスクランブル交差点で始めの一歩を踏み出せる勇気が少し出てきた。
 いつも何かに脅え、いつも不安だらけで何もかも投げ出してしまいたかった弱い自分
 薬によって支配されつづけた自分。
 突然おそってくる恐怖にさいなまれ、いつも人の選んだ道しか歩けなかった自分。
 人の死がこんなにも強い心を与えてくれるものだとは知らなかった。
 どん底の中で見つけた一筋の光。
 その光をこれからも守ってゆこうと思う いつも、いつの日も。ずっと、ずっと。
 孤独を感じ、「太宰治」のお墓参りをした帰り道、
 電車の中で人知れず流した涙は本当に報われたのだろうか。
 それが分かるのは、これからの自分の生き方次第だろう。
 さあ、一歩を踏み出そう。雑踏の中で自分を信じていこう。
 シグナルは青だ。