詩誌「詩人散歩」(平成20年秋号)
◆これまでの【詩編】を掲載しています。

  面影                    浪 宏友

あのときもこんな夕刻だった
大粒の雨がいきなり落ちてきて
ぼくらは慌てて手近な喫茶店に飛び込んだ
音立てて叩きつける雨足を窓越しに見ながら
ぼくらは始めていろいろなことを語り合った
そのとき ぼくは 発見したのだ
あなたが この世で一番美しい女性であることを

それからしばしばぼくらは二人きりで
同じ喫茶店の同じ席に向かい合って
まだ見ぬ世界を紡ぎだした
あるときは 花畑をわたる薫風のように
あるときは 山頂から眺める海原のように
あるときは 何処までも深まりゆく星空のように
その間に ぼくは ますます確信したのだ
あなたが この世で一番美しい女性であることを

ふっつりと
あなたが見えなくなった日から
ぼくの毎日はがらんどうになってしまった
中味のない毎日がぼくの心に散らかって
次第に夕闇が濃くなっていく
同じ喫茶店の同じ席で
すがたのないあなたと向かい合っても
あなたの声は聞こえない

あのときと同じ夕刻
喫茶店の同じ席に沈んでいる

この世で一番美しい女性であるあなたの面影が
琥珀色のコーヒーに淡く揺れ
大粒の雨が
激しい音を立てて窓に叩きつけている

  うちわ(1)                中原道代

白いうちわに彩って
貴方は向日葵
私は朝顔
これもなかなか
なんて言いながら
程良い風を受けている

軒下の朝顔の蔓
上へ上へぐんぐんと
お日様めがけて手を伸ばす
お膝に葉漏れ日やさしく揺れて
これもいいね
なんて言いながら
熱いお茶を頂けば
止まったうちわが動き出す

  移りゆく時の中で               大戸恭子

いつの間にか 積み上げてしまった
孤独な砂の城が
やさしい波に 少しずつ崩されてゆく
青春という傷も もうかさぶたになっている
喜びも悲しみも溶け合って溶け合って
月日は流れていく
男も女も溶け合って溶け合って
新しい時代を造る
いつの間にか流れついて来た
孤独な椰子の実が
新しい夏の思い出を作ろうとする
旅という疲れも もう癒されはじめてる

  冬の海に白い鳥                山本恵子

真冬の海に鳥の大群
ブルーの波に白い鳥
ロマンあふれる島の正月

テトラの上で一休み
魚がいるのか水遊び
足をとられてみとれる二人

  海岸散歩のおまけ                山本恵子

海岸歩いて貝がら拾い
楽しい正月貴方と散歩
小さい貝がらちらほらと

波うちぎわに寄り添って
仲むつまじく語らいて
晴れて明るい元日の朝

磯物採って楽しみは
お昼ご飯の味噌汁
磯の香り至福の一時