詩誌「詩人散歩」(平成21年夏号)

yuyake
◆これまでの【詩編】を掲載しています。

  少女へ                   浪 宏友

君は風
後ろからきて
ぼくを追い抜き
たちまち町並みに紛れて行った
取り残されたぼくは
君の余韻を見送っていた

君は花
真っ白なブルゾンを着こなして
爽やかに輝いていた
沈みきった町には不似合いな
瑞々しい君の香りが
ぼくのまわりに漂っている

君は稲妻
ぼくの目に 眩しい閃光を投げつける
立ち尽くす僕を放り捨てて
瞬時に君は消えてしまう
光のナイフに切り裂かれたぼくは
ようやくノロノロと動き始めた

君は流れ星
どこから現れたのか
どこへ飛び去るのか
見定めようもないままに
ぼくの眼の奥に痕跡を残して
それっきりになる
見上げれば
夜空が甲斐もなく広がっている

  春の息吹                  中原道代

雨上がりの朝
街路樹の下 車を止めた

人影のない静かな街
やわらかな若葉の色
伝わり落ちる露の音
春の息吹を感じてる

搬送口に止めたトラック
響き渡る台車の音
路地からひとりまたひとり
足早に通りこす若者たち
見慣れた街が甦る

車をゆっくり発車した
賑やかな営みの中に
私もそっと溶け込んでいく

   霧の朝                   織田信雄

一月の濃い霧の朝だった
私は住宅地内の四つ角に
立っていた
向いからふいに現れる ゴミの袋を持った人
左方向から近づいてくる こども達の声がある
目の前に忙しく現れて 消えてゆく勤め人がいる
「おはようございます」という声があっちの方から
こっちの方から聞こえてくる
───霧の中に朝が詰まっている

  夜明けの浜                  山本恵子

伊豆の山々が浮き上がり
利島・式根・神津島と見え
赤青黄の電気
ネオンみたいに素晴らしい朝

立ちすくんで見ていたら
カモメが多く潮風のテトラで
たわむれて私に話しかけた
家に帰らないであそんでよ

食事前だから又来るね
いついつまでも友達でいてって
海っていいね魚もいるし貝もある
だから私は好きなんだ

  本当のこころ                 中野典子

忘れかけていたあの思い
みんな持っていたあの思い
思い出させてくれる あの子たち
純粋で 一本気で 素直で 何も疑わず
小さい頃 みんな持っていた あの思い
又 味わいたくなる あの思い
小気味いい
忘れかけていた あの思いが 沸き出してくる
ホッとする あの思い
小気味いい
あの子たちは
忘れかけていたものを置いていって
毎回 忘れ物を忘れている
その バランスが
小気味いい

  ハンディ                   大戸恭子

ハンディ大きいな
でも もうちょっと頑張ってみるか
満足しないかもな
納得いかないかもな
ただ疲れるだけかもな
でも もうちょっと頑張ってみるか
いいか これが出来たら
えーと 次はあれか
辛いか 休みたいな
でも もうちょっと頑張ってみるか
みんな平気でやってるな
くやしいよ
だけどいいよ 精一杯やれば
みんなより多く頑張ってるのさ
うちらは強いんだ 負けないで
なあ もうちょっと頑張ってみような

  私の一日                  山本ルイ子

少し温かさを感じながら
窓の外を眺めていた。
右には楽しそうにランチを食べてるカップル。
左には営業がうまくとれなかったのか
疲れた顔で一服をしている男性。
噴水の周りには子供が無邪気に走っている。
そんなありきたりな風景だけど
季節を感じながら見ていると
毎日がとても新鮮になれる。
『さて、今日も仕事頑張ろう』と。

  孝行                     伊藤一路

生まれて初めて死にたくないという感情を持った
死にたいと思っていた訳ではないが
事故や病気など運命だから仕方ないと思っていた

昨年 子供が生まれた
事故であろうと病気であろうと
何が起ころうと絶対に死にたくない
という感情に変わった

感情が変わると行動が変わった
早々に親孝行してもらったように思う